大阪大学の研究グループは,回路基板内に発生する電磁ノイズ現象を超高精度に再現するシミュレーターを開発することに成功した(ニュースリリース)。
電磁ノイズの起源である電位の「和」がなぜ,どこで,どのように生じ,電気回路に影響を及ぼすのかを可視化することは困難であるため,それらの対策の多くは熟練技術者の経験やノウハウを元に施されている。電磁ノイズの発生過程を可視化し,どのように生じているのかを理解することは次世代回路設計において非常に重要なこととなる。
そこで,研究グループではこれまでに,電気・電子回路内に発生する電磁ノイズ現象を定量化する理論を考案し,電磁ノイズが発生しない回路構造を理論的に導出した。
この研究では,電磁ノイズ現象を記述するために,回路の特性を導体間の相対的な物理量である「差」で表すのではなく,それぞれの導体内の絶対的な物理量を定量化し,「和」を扱うことを可能にしたことで,電磁ノイズ現象の起源を解明するシミュレーターを開発することに成功した。
具体的には,回路を構成する3次元導体内の電磁気学的な物理量である電位と電荷,ベクトルポテンシャル,電流を変数とする連立偏微分積分方程式を物理モデルによる近似などを用いずに,直接解く数値計算手法を考案した。さらには,導体内の物理量を励起するために,任意の境界で回路素子(電圧源や抵抗など)を接続するアルゴリズムを開発した。
今回の研究成果により,電気回路内の物理量が時間に伴いどのように伝搬し,変化するのかを可視化することができるという。それにより,電磁ノイズがなぜ,どこで,どのように生じたのかを直感的に理解することができ,これまでの対症療法的な電磁ノイズ対策ではなく,電磁ノイズの起源を根本からなくす回路設計が可能になる。
この技術は,回路の特性を決める導体形状を高精度に考慮することができる。実証実験では回路の配線の曲げによって伝搬する信号(電位差)が歪んでおり,この歪みの形状は回路の形状を反映している。また,1ナノ秒以下の高速信号にも対応していることもわかったという。
今後はこの研究技術を用いて,様々な回路導体内に発生する電位の「和」によって発生する電磁ノイズ現象を解明し,ノイズレス回路設計へと応用していくとしている。