早稲田大学,兵庫県立大学,大阪大学の研究グループは,1-10メガ電子ボルト(MeV)のガンマ線を高精度に可視化する,コンパクトなカメラを開発した(ニュースリリース)。
今回の装置はコンパクトかつ軽量で,大きさ5x5x10cm3,重さ1kg程度となる。この装置の鍵は,独自開発の「3Dシンチレータ」(特許6145248号)。ガンマ線阻止能に優れたCe:GAGGシンチレータを採用し,これを光センサーである上下の光半導体増幅素子(MPPC)で挟み込むことで,ガンマ線の反応位置を3次元かつ2mmの精度で計測する。
さらに,上下MPPCから独立に得られる位置情報を比較することで,検出器内で多数回散乱したイベントの90%以上を除去し,同時に得られるスペクトル情報から,検出器外にガンマ線が逃げてしまうエスケープイベントを除去する。これにより,軽量コンパクトでありながら,1-10MeVで高精度のガンマ線イメージングが可能となった。
この研究では,兵庫県にある大型放射光施設SPring-8内に併設されたニュースバル放射光施設において,MeVガンマ線イメージング実験に挑戦した。
ニュースバルは兵庫県立大学を中心に整備された施設であり,SPring-8で加速された高エネルギー電子ビームをレーザー光(NdレーザーやCO2レーザー)に衝突させることで,1-40MeVの準単色ガンマ線を発生する。アイソトープなど放射線源では実現できない高エネルギーガンマ線を提供できる世界屈指の実験施設であり,様々な科学・応用研究に役立てられている。
実験では,コンプトンカメラの正面および20°の方向から1.7MeV, 3.9MeVのガンマ線を照射し,それぞれの画像を取得した。解像度は1.7MeVガンマ線に対し 3.4±0.1°(0°から照射:FWHM),3.8±0.1°(20°から照射:FWHM)となり,同エネルギーにおけるコンプテルの解像度(3.9°:FWHM)を凌駕する,優れた値が得られた。
さらに,3.9MeVガンマ線に対してもイメージングに成功し,解像度は4.0±0.5°(0°から照射),4.6±0.4°(20°から照射)となった。また,ガンマ線に対する検出感度(固有効率)も2MeV以下でコンプテルを上回る,優れた結果が得られた。これらは,電磁シミュレーション(Geant-4)の結果とも正確に一致しており,設計通りのパフォーマンスを示すことが実証された。
研究グループは今後,小型衛星搭載に向け20×20cm2のプロトタイプ装置開発を進めると共に,地磁気に補足された荷電粒子の混入や,バックグラウンドとなるガンマ線の効率よい除去方法を確立するとしている。