国立遺伝学研究所,静岡大学,東京農業大学の研究グループは,藻食アメーバが光合成生物を細胞内に共生させ,さらには葉緑体として利用するための機構は,捕食・被食の段階から漸進的に準備されてきたことを解明した(ニュースリリース)。
光合成装置は有害な活性酸素種を生じるため,藻類および植物は光合成酸化ストレスへの様々な対処機構を発達させていること,対処しきれない場合は死んでしまうことが知られている。
同様に単細胞藻類を共生させるまたは捕食する真核生物も,単細胞生物の場合,細胞内に取り込んだ藻類細胞に光が届くので活性酸素種が生じ,光合成酸化ストレスに曝されると予想されるが,単細胞の捕食性生物にとって藻類えさが毒まんじゅうであるのかについての研究例はこれまでなかった。
そこで,日当たりの良い湿原から単離した系統の大幅に異なる3種の藻食アメーバを用いた解析を行なった。その結果,以下のことが3種のアメーバに共通して起こることが明らかとなった。
(1)藻食アメーバは餌の光合成性と光特異的に強い酸化ストレスに曝される。光合成酸化ストレスが上昇する強光下で光合成生物を補食すると死ぬこともある。
(2)昼間にはアメーバの酸化ストレス対応遺伝子群の発現が上昇し,一方でアクトミオシン等ファゴサイトーシス関連遺伝子群の発現が抑制される。
(3)アメーバは昼間には餌の取り込みを抑制する一方で,それでもなお取り込んでしまう餌の消化速度を速める。つまり,細胞内の光合成性えさの数を減少させることで活性酸素種の発生を抑えていると予想される。これに似た現象として,光合成酸化ストレスが高まる環境下で,細胞内の共生藻類を消化または吐き出すことが,ミドリゾウリムシ,サンゴなどで知られている。
(4)アメーバは,これまで藻類・植物でのみ見つかっていたクロロフィルの分解・無毒化遺伝子を,それぞれ独立に,光合成生物からの遺伝子水平転移により獲得している。これらの遺伝子は,光または酸化ストレスにより発現誘導される。
これまで,葉緑体タンパク質をコードする核ゲノムの遺伝子群の多くは,恒久的な細胞内共生の確立後,共生体ゲノムから宿主核ゲノムに移行することで獲得されたと考えられてきた。
しかし,今回の研究の結果,それらの少なくとも一部は,共生が成立するよりも遙か前の,捕食・被食段階から(例えば光合成性えさゲノムから捕食者の核ゲノムへの)水平転移によって順次獲得されてきた可能性が示唆されるとしている。