東北大学とサイオクスの研究グループは,全方位フォトルミネセンス(ODPL)法を用いて,窒化ガリウム結晶における微量な炭素不純物の検出に成功した(ニュースリリース)。
半導体デバイスは,用途に応じて様々な材料を用いて製造されるが,なかでも窒化ガリウム(GaN)は,高性能な電子デバイスや光デバイスに適する材料の一つとして注目され,国内外におけるGaNデバイスの開発競争が激化している。
GaNに基づく高耐圧トランジスタや高出力LEDの性能を支配する要因の一つに,炭素不純物が挙げられる。炭素は微量でもデバイスの性能を低下させるため,これを高感度に検出する必要がある。しかし,半導体における不純物計測技術は,一般的に破壊検査,もしくは試料に対して電極を形成する必要があるなどの制限があった。
GaNは直接遷移型半導体と呼ばれ,外部から励起を受けると特有の光を放出する(例えば,GaNにInNを混ぜたInGaNは青色LEDの発光層に利用されている)。この時,炭素不純物の少ない結晶ほど強く発光するため,発光量もしくは発光効率を指標とすることによって炭素不純物の濃度定量が可能となる。
光計測は一般に瞬時かつ感度が高いという利点があるが,一方で計測者の技量によってその強度が簡単に揺らぐため,再現性に乏しいことが知られている。このため研究グループは,積分球と呼ばれる装置内に試料を配置して,結晶から放出された光を全方位に渡って集めることで発光量や効率を絶対測定する方法に着目し,評価技術の改善に取り組んできた(ODPL法)。
また研究グループは,炭素濃度を意図的に変化させた複数のGaN結晶を準備して,それぞれの発光量子効率をODPL法にて計測した。その結果,炭素不純物の濃度に対応して,発光量子効率がほぼ線形に変化することを見出した。
さらに,一立方cm当たりの炭素不純物の数が4.0×1014個(4.0×1014cm-3)を下回るような低濃度領域においても線形性があることが分かった。
これは,GaN結晶の原子密度が(ガリウム原子と窒素原子を合わせた総数)が約8.8×1022 cm-3であるため,およそ2.2億個(2.2×108個)に1個という,極めて微量の炭素原子が不純物としてまぎれていても検出ができることを意味するという。
この研究成果は,試料の破壊や電極形成などの複雑な工程を必要とせず,試料に光を当てるだけで微量の炭素濃度が簡便に定量できることを示す。また,測定時間も従来手法と比べて極めて短いため,大きなGaN結晶全面の不純物分布の測定にも活用できるとしている。