富士通ら,GaN HEMTに放熱ダイヤモンド膜形成

富士通と富士通研究所の研究グループは,気象レーダーなどのパワーアンプ(増幅器)に使用されている窒化ガリウム(GaN)高電子移動度トランジスタ(HEMT)(GaN HEMT)の表面に,世界で初めて放熱性の高いダイヤモンド膜を形成する技術を開発した(ニュースリリース)。

レーダーシステムに用いるトランジスタは,長距離対応にともなう高出力化のため発熱量が増大するため,冷却装置の簡素化・小型化が課題となっている。富士通は,GaN HEMTの基板と単結晶ダイヤモンドを常温で接合する技術を用いてGaN HEMTの裏面側から効率的に放熱させることに成功しているが,より高い放熱効果を得るためには,表面側にもダイヤモンド膜を形成する技術が必要となる。

効率よい冷却には大きな粒径のダイヤモンド結晶が必要だが,一般的なダイヤモンド膜の形成温度は900℃程度と非常に高温であるため,GaN HEMTを破壊してしまうという問題があった。

そこでGaN HEMT上に高放熱ダイヤモンド膜を形成するために,まず,GaN HEMTの表面全体に直径数nm程度の極めて微小なナノダイヤモンド粒子を配置した。このナノダイヤモンド粒子を高い熱エネルギーを持ったメタンガスにさらすことによって,メタンガス中に含まれる炭素をダイヤモンドに変化させ,配置した粒子に取り込ませることができる。炭素は高いエネルギーを持つと,ある特定の方向を向いたダイヤモンドに選択的に取り込まれるという性質を持つため,同じ方向を向いたダイヤモンドが結合し大きくなる。

一方,メタンガスへ与える熱エネルギーが小さい場合,メタンガス中に含まれる炭素は配置したナノダイヤモンド粒子に取り込まれるために必要なエネルギーが得られない。そのため,バラバラの方向を向いた小さな粒子の集合体となる。

研究グループは,このダイヤモンド形成時の圧力やダイヤモンドの原料となるメタンガスの濃度によってメタンガスが受け取る熱エネルギーが変化することに着目し,低温条件でありながら特定の方向を向いたナノダイヤモンド粒子を選択的に大きくできることを見出した。

これにより,ナノダイヤモンドを1000倍大きなµmサイズのダイヤモンドへと変化させることが可能となる。その結果,GaN HEMT動作時の発熱量をダイヤモンド膜なしの場合と比較して約40%低減し,温度を100℃以上低下させることが可能となる。

さらに,同社の単結晶ダイヤモンドと炭化シリコンを常温で接合する技術を用いた裏面からの放熱と組み合わせることで,GaN HEMTの表裏両面をダイヤモンド膜で覆うことが可能となり,発熱量を約77%減と大幅に低減できる見込みだという。同社では高放熱GaN HEMT増幅器の2022年度の実用化を目指すとしている。

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