量子科学技術研究開発機構(量研),宇都宮大学,東京大学,早稲田大学,東北大学,理化学研究所,高輝度光科学研究センター(JASRI)の研究グループは,X線自由電子レーザー「SACLA」を用いて超短パルス軟X線レーザーに特有の表面加工メカニズムを解明した(ニュースリリース)。
現在,nmスケールの半導体造形技術は複雑な工程からなるリソグラフィプロセスによって実現されている。将来の量産化や低価格化を実現するためには,より単純な直接加工プロセスを用いた精密加工技術による高い量産性と品質の実現が鍵となる。
超短パルス軟X線レーザーを固体物質に照射すると,超短時間(フェムト秒領域)に微小な空間(nm領域)において材料原子を構成する電子が励起され非平衡状態(SEES)が生じることが予測されている。
SEESに起因する材料の表面や内部での構造変化を利用したナノスケールの超精密加工技術への応用展開が期待されているが,このような超短時間,微小空間において変化する物理現象を直接観測することは非常に困難であり,加工学理の理解は進んでいないという。
この研究ではSACLAを用いて,シリコンに対する吸収特性が大きく変わる2つの波長(光子エネルギー),10.3nm(120 eV)と13.5 nm(92eV)の超短パルス軟X線レーザー照射試験を行ない,軟X線の吸収の違いによる表面加工形状について,原子間力顕微鏡(AFM)を用いた詳細な解析を行なった。
その結果,軟X線の吸収が小さい波長(13.5nm)を用いた場合,熱的影響による溶融プロセスが顕著となり,表面形状において中央部の膨張や盛り上がったリム構造形成が見られた。
一方,吸収が大きい波長(10.3nm)を用いた場合では,レーザー照射条件を適切に選択することにより,数nmスケールの深さ形状を持つ熱的影響が抑制された加工を実現できることがわかった。
軟X線の吸収による原子と電子の振る舞いを組み込んだ理論モデル計算(XTANTコード)と実験を比較した結果,シリコン表面に加工痕が発生する最小のレーザー照射強度(加工しきい値)が,理論モデルで示す非熱的加工しきい値から熱的加工しきい値までの計算結果とよく一致することを明らかにした。
これらの結果は,加工材料や加工サイズに応じて超短パルス軟X線レーザーの波長や照射強度を適切に選択することで,さまざまな材料に非熱的な超精密加工が実現できる可能性を示しているとしている。