東京理科大学の研究グループは,金・ガリウム・ユーロピウム(Au-Ga-Eu)の合金について,結晶とアモルファス(非晶質)に次ぐ第三の固体状態として知られる「準結晶」に酷似した原子的構造を持つ「1/1および2/1近似結晶」を発見し,温度を下げることで「反強磁性転移」を観測することに成功した(ニュースリリース)。
結晶とは,原子や分子,またはイオンが規則的かつ周期的に配列した状態で,例えば塩の結晶なら,立方体の各頂点にナトリウムイオンと塩素イオンがそれぞれ隣り合うように配置され,その構造が縦,横,高さの3方向に無数に繰り返されている。それに対して非晶質とは,原子などの配列に規則性も周期性も何もない状態となる。
準結晶は結晶と同様に,原子や分子,イオンが規則的に配列されているが,その配列には周期性が全くないという。このことから,準結晶は結晶でも非晶質でもない,固体の第三の状態であると考えられている。
今回研究グループが使用したのは,Au-Ga-Euの3種の金属からなる合金となる。最近合成に成功した,Au66Ga20Eu14の1/1近似結晶と,Au65Ga20.5Eu14.5の2/1近似結晶について,ネール温度をそれぞれ7.0K(-266.15℃),8.5K(-264.65℃)とする反強磁性転移を観測した。
また,特に準結晶を構成する構造的要素を全て含むと考えられる2/1近似結晶の磁性を詳しく理解するため,1/1近似結晶と2/1近似結晶の両方について,超伝導量子干渉計(SQUID)を使用して近似結晶の磁気特性が変わる条件を調べた。すると2つの異なる近似結晶の磁気特性を,「e/a比」という1つの共通のパラメータが支配していることが示唆された。
Au-Al-Gd系の1/1結晶では,温度が2.2K(-270.95℃)のとき,e/a比を2から1に向かって少しずつ減らしていくと,磁気特性はスピングラスから強磁性,やがて反強磁性へと次第に変化していく。
反強磁性が見られるのは,e/a比が1.54から1.56のごく狭い間だけで,e/a比が小さくなるにつれて,反強磁性を示し始める温度は低くなっていくという。
今回のAu-Ga-Euの2種類の近似結晶のe/a比はどちらも,1.54から1.56の範囲に収まるものだった。2/1近似結晶で反強磁性が確認されたのは今回が初めてだが,反強磁性を示すe/a比は,1/1結晶と同じ範囲に収まっていたことになるという。
これら近似結晶の性質の解明は,結晶と非晶質に次ぐ,固体の第三の状態として知られながら,その特性が十分明らかにされていない「準結晶」の性質の理解に繋がるとしている。