北海道大学の研究グループは,炭素原子一層からなるグラフェンを金属ナノ構造表面に配置し,その金属構造が作り出すナノ光源を利用することで,その物質が本来は示さない光吸収プロセスを発現しうることを明らかにした(ニュースリリース)。
この研究では,導電性基板上に,化学気相合成法により合成した欠陥を持たない単層グラフェンを担持した後,グラフェン上に構造を厳密に規定した金のナノ構造体を作製した。この複合構造が担持された基板の表面に近赤外光を照射し,ラマン散乱光を取得することでその表面の電子状態に関する調査を行なった。
さらに電気化学手法を系に導入することで,系の電気化学ポテンシャルを厳密に規定した上でラマン分光測定を行なった。この測定によって,電気化学電位に応じてラマンバンドが変化することや特徴的なバンドの出現を観測した上で,ナノ光源に照らされているグラフェンの電子状態について議論した。
今回実験で行なったラマン分光測定では,特に物質が光を吸収するような条件において強くラマン散乱光が観測される。また,欠陥を有さないグラフェンをラマン分光測定により調査すると,その電子状態や光との相互作用に関する情報を正確に観測できることが知られている。
研究グループは,種々の測定を行なうことによって,通常の分光測定では見られないような特徴的なラマンバンドが出現することを初めて観測した。このバンドは,近赤外領域の光照射を起源にしているナノ光源に照らされた単層グラフェンにおいて,通常では起こりえない電子の励起が起こったことに由来しているという。
また,電気化学電位制御手法に基づく定量解析を慎重に行なった結果,この研究により観測された光学選択則の破れを伴う光吸収により,より化学反応性の高い励起状態を生成していることを明らかにした。
以上の成果は,ナノ光源を用いることにより,これまでの限界をはるかに凌駕した光化学反応,光エネルギー変換デバイスを創成しうる可能性を強く提唱するものであると考えているという。
近年,エネルギー問題の解決は人類が解決すべき急務の課題と言われている。自然エネルギーである太陽光の高効率利用に向けては,物質が吸収した光エネルギーをいかに効率的に外部へと取り出すかに焦点が当てられていた。
そのような背景から,これらの研究で明らかになった物質の光吸収過程を変革しうる可能性は,従来の既成概念を超えた自由な光化学反応制御技術開発への応用に期待されるとしている。