浜松ホトニクスは,テラヘルツ波の発生原理の解析結果に基づき内部構造を工夫することで,テラヘルツ波を出力する従来の半導体レーザーを長波長化し,室温かつ単一で動作する半導体レーザーでは世界最長となる波長450μmとサブテラヘルツ領域のテラヘルツ波の出力に成功した(ニュースリリース)。
同社は昨年,独自の結合二重上位準位構造(AnticrossDAU)を採用した「テラヘルツ非線形量子カスケードレーザー(QCL)」を開発した。これは,一つの半導体素子から6~11μmの範囲で波長の異なる二つの中赤外光を出力し,素子内部での非線形光学効果により最長150μmのテラヘルツ波を発生する,室温かつ単一での動作が可能な小型半導体レーザー。
より長い波長のサブテラヘルツ領域の電磁波を発生させるには,二つの中赤外光を長波長化する必要があるが,素子内部で吸収されやすくなるため出力は困難だった。
この研究では,テラヘルツ非線形QCLの波長変換の原理を詳細に解析することで,これまで非線形光学効果を説明することは難しいとされていた理論が適用できることを見いだした。
この理論を非線形光学効果による波長変換機構の設計に適用し,結合二重上位準位構造を最適化することで,素子内部での光の吸収を抑えることが可能となり,2波長の中赤外光を13~14μmまで長波長化するとともに波長変換効率を高めた。
この結果,従来の半導体レーザーを長波長化し,室温かつ単一で動作する半導体レーザーでは世界最長でサブテラヘルツ領域となる波長450μmのテラヘルツ波の出力に成功した。
この研究成果は,薬剤や食品の品質検査,非破壊検査,さらに電波天文学への応用も期待される。また,家屋や事務所,データセンター内などでの短距離の高速大容量通信への応用が見込まれるという。
加えて,この研究では室温で130μm,210μmおよび270μmの波長でもテラヘルツ波の出力に成功している。世の中ではこれまで,半導体レーザーを冷凍機で―200℃以下の極低温まで冷却することで最長250μm付近まで長波長化していたが,この研究成果を応用することで,室温かつ単一で動作しテラヘルツ領域の大半をカバーする半導体レーザーの開発にもつながるという。
今後,素子内部の構造設計や半導体基板の構造・材料をさらに工夫することでテラヘルツ波の取り出し効率を高め,高出力化を進めていくという。また,放熱機構を採用することで,一定の強さの光を連続して出力するCW動作の実現を目指すとしている。