東大,光学活性アミンの合成触媒を開発

東京大学の研究グループは,小分子医薬の4割程度に含まれる重要な化合物群であるキラルアミンを,不斉水素化により効率的に合成を行なえる不均一系イリジウム触媒として新たに開発した(ニュースリリース)。

キラリティーを持つアミン(キラルアミン)類は医薬品の構造中によく現れ,小分子医薬の40%程度に含まれていると言われている重要な化合物群。現行の工業的な製法としては触媒系がほとんど用いられず,当量のキラル源を用いた反応や,ラセミ体の光学分割を用いる方法などが採用されている。これらの方法は高価なキラル源を大量に必要とし,かつそれらが最終的には廃棄物となってしまう問題がある。

今回研究グループは,不斉水素化反応に有効なポリスチレンに固定化した不均一系イリジウム触媒を開発し,キラルリン酸触媒を共触媒として用いる芳香環イミン類の不斉水素化及び脂肪族ケトンの還元的不斉アミノ化反応に適用した。

この触媒はバッチ法において,幅広い種類の基質に対して使用できる。連続フロー法では,この触媒を充填したカラムに,基質と水素を流すことによって生成物を連続的に得ることができ,従来のバッチ法よりも低い水素圧(バッチ法の20気圧に対し,3-6気圧)で反応を行なうことができた。

更に,キラルリン酸を捕捉可能な塩基樹脂を詰めたカラムを連結することで,キラル源の回収・再使用が可能であることを示した。

このフロー法は医薬品前駆体の合成にも適用可能であり,実際に排尿障害の治療薬として用いられている「ハルナール」の医薬原体であるタムスロシンの鍵中間体の連続合成を達成した。これらの成果は高効率的なファインケミカルズの連続合成法に新たな手法を提供できるという。

研究グループはこれらの知見により,キラル化合物をはじめとする高付加価値化合物の工業生産法に革新をもたらすとともに,この研究を元に,他の種類のキラルアミン含有医薬品の効率的連続合成への展開も考えられるとしている。

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