日本製鉄ら,超急速加熱過程で転位の動きを観測

日本製鉄,理化学研究所,大阪大学,高輝度光科学研究センターの研究グループは,X線自由電子レーザー施設SACLAにおいて,鉄鋼材料のマルテンサイト組織の超急速加熱過程における転位(結晶欠陥)の瞬間的な動きの定量的な観測に,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

鉄鋼製造プロセスにおいて,加熱,冷却の速度は,鉄鋼材料の性質を決める極めて重要なパラメータである。 しかし,速い温度変化での原子拡散や組織変化は,その観察の難しさから,物理的,速度論的な理解が進んでいなかった。

特に,高品質化を志向する製造法の開発にあたっては,マルテンサイトからオーステナイトに変化(相変態)する微視的過程における転位の動きを理解し,精密に制御することが極めて重要であるという。

これまで1秒間で数℃の加熱速度における転位の動きは観測できたが,原子の拡散が速い高温では微視的かつ高速の変化を観測することが難しく,マルテンサイトからのオーステナイト形成での転位の動きは明確ではなかった。この変化の観察は,鉄鋼材料の高性能化・高品質化に繋がる重要な知見を与えるという。

この研究では,1秒間で1万度の加熱速度によるマルテンサイトの組織変化をSACLAのX線自由電子レーザーを用いて観察し,転位密度や炭素濃度の観点から,鉄鋼材料の組織形成過程の解明に成功した。

これは,工業的にも学術的にも極めて重要な成果であり,鉄鋼材料の組織形成に関わる転位や炭素のその場観測での知見により,鉄鋼材料の高性能化・高品質化,新合金または製造プロセスの開発等,今後大きな展開が予想されるとしている。

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