産業技術総合研究所(産総研)は,走査型電子顕微鏡(SEM)中でのエネルギー分散型エックス線分光法(EDS)による元素分析を従来よりも2桁以上高い空間分解能で可視化する技術を開発した(ニュースリリース)。
SEM中でのEDS計測は,元素組成を簡便に定量分析する手法としてさまざまな材料に広く用いられているが,従来のSEM-EDS法では,環境由来の元素放出や帯電現象(チャージアップ)が生じるため,高い空間分解能でのカーボンナノチューブ(CNT)表面の元素イメージングは困難だった。
今回開発した技術では,観察に用いる支持基板に,新たに窒化物基板を用いて酸素などの環境元素の放出を十分に抑え込んだ。また,支持基板上にメッシュ状の金属パターンを作製して帯電現象をほぼ完全に抑制した。さらに,試料からのX線を高効率で検出できる四素子一体アニュラー型シリコンドリフトEDS検出器を用いることで,10nm以下の高い空間分解能での元素イメージングを実現した。
今回開発した技術で,スーパーグロース法の単層CNTを,過マンガン酸カリウム/硫酸溶液中で酸化処理を行なって表面にカルボキシル基(-COOH)などの官能基を導入したものを観察したところ,SEM画像で観察されるCNTのバンドルが,EDSによる炭素元素のイメージングでも鮮明に観測できた。
また,酸素元素のイメージングでもCNTのバンドル構造を良く反映しており,表面官能基に由来する元素の高い空間分解能でのイメージングに成功した。
SEM-EDS法によって測定した表面官能基に含まれる酸素元素によるX線の強度を,CNTに含まれる炭素元素によるX線の強度で規格化したO/C比を可視化したところ,バンドルの測定箇所ごとにO/C比が異なり,表面官能基が不均一に導入されていることが分かった。
またこれらO/C比の違いはSEM画像で観測されるCNTバンドルの解繊状態と良い相関を示し,これまで経験則に基づいて検証されてきたCNT表面の官能基の導入量と解繊状態との相関が,今回初めて実空間で直接可視化された。
今回開発したSEM-EDS技術はナノ粒子や,ナノメートルからマイクロメートルスケールの平面サイズの酸化グラフェンなどの2次元材料まで,さまざまなナノ材料に応用できるという。今後は,CNT中の官能基分布や官能基化されたCNTバンドルの分散状態を評価する手法や,さまざまなナノ材料系の分析・評価技術としての開発にも取り組むとしている。