日本電気(NEC)と東北大学は,米メリーランド大学と共同で,これまでの研究成果である実験データ生成の省力化技術と,材料特性に対する高精度での予測とその解釈性を与える技術に加え,今回新たに材料の特性向上に関わる無数の要因から主要因を効率良く抽出する手法を開発した(ニュースリリース)。
近年,自然科学領域でも,機械学習を用いて材料開発を行なうマテリアルズ・インフォマティクスや,物理探求を行なうフィジクス・インフォマティクスが注目されており,研究グループは以下の研究開発に取り組んできた。
① ロボティクス技術を駆使して大量の材料作製とその特性データ取得を自動で行うコンビナトリアル実験技術
② ①で得られたデータを基に自動で材料シミュレーションを実行し大量のデータを蓄積するハイスループット計算技術
③ 解釈可能な機械学習(異種混合学習)を組合せたシステムを活用し,スピン熱電材料の特性向上に関係する物性値などの要因探索
しかし従来のシステムでは,①の実験データに含まれている不完全性により,③で判明する多くの要因の内,どれが主要因なのかを絞りこむ事が難しいという課題があった。
例えば,スピン熱電材料の特性向上に際しては,数十~百個程度の要因が関係しているとの示唆が得られたものの,特性改善に向けた材料探索を,数多くの要因に対して順に実施する必要があったため,材料開発の効率を上げられずにいた。
今回,個々の実験データの不完全性を考慮することにより,①の実験データと②の計算データの双方を同時に③の機械学習で扱えるようにすることで上記問題を解決し,実際にスピン熱電現象に関する機械学習モデルを構築した。
さらに,この機械学習モデルを物理・化学等の専門的な知見を持つ開発者が考察することで,熱電性能に関係する主な要因を絞りこみ,効率良く実験を進めることで性能向上を実証したという。
今回の結果は,特定材料への適用の一例だが,目的とする特性向上の要因が優先順位付きで絞り込まれ,かつ解釈可能な形で提供されるため,このシステムから得られる示唆を材料開発者が考察し,実験を繰り返すことで,開発者だけでは見つけられずにいた新材料・新物性の発見の可能性を広げるとしている。