東京大学,自治医科大学,生理学研究所,理化学研究所らの研究グループは,霊長類コモン・マーモセット大脳皮質運動野の神経活動を光遺伝学の技術で操作(光刺激)することによって腕の運動を誘発できる事,また運動関連領域を網羅的に光刺激することで,異なった方向への腕の動きが運動野の中の別々の領域で表現されている事を明らかにした(ニュースリリース)。
大脳皮質の運動野は,手や足などを動かすために必要な脳の領域で,各体部位の動きは運動野の中の別々の領域でコントロールされている。そのため,運動野の特定の領域の神経活動を上昇させると,その領域に対応する体部位の運動を誘発できる。
脳の神経活動を制御するために,光遺伝学を利用する研究が増えてきている。しかしこれまで,霊長類脳の運動関連領域の活動を光刺激して手や足の動作を誘発することは世界的に成功しておらず,光遺伝学によって運動野の機能を解明しようとする研究はほとんどなかった。
そこで研究では,グループが2015年に発表した,導入遺伝子の発現を増幅させる方法(Tet 発現誘導法)を利用して,青色光の高頻度照射によって神経活動を上昇させる事ができる光活性化タンパク質(チャネルロドプシン 2,ChR2)を,マーモセットの大脳皮質運動野に発現させた。
次に,マーモセットの大脳皮質運動野の上部に非侵襲的に光ファイバーを設置して光刺激することで,腕の運動が誘発されることを確認した。
次に,大脳皮質運動野を小区画に分割して,それぞれの区画を光刺激した結果,マーモセットの運動野ではさまざまな向きの腕の動きが別々の領域でコントロールされていて,それぞれが協調的に機能することで複雑な腕の運動が形成されている可能性が示唆された。
この研究では光遺伝学の技術によってマーモセットの運動野機能を非侵襲的にマッピングするための方法を開発し,光刺激によって実際に,運動野の特定の領域がどのような腕の動きを支配しているかを調べる事に成功した。
これまでに研究グループは,マーモセットでの脳活動を単一細胞レベルでイメージングする技術と,複雑な運動機能を評価するための腕運動課題を開発してきた。今回開発した技術を加えることで,運動失調を示す疾患モデルマーモセットでの運動野活動と行動の関連性と因果性を調べることができる。
これらの開発によって,特に脳神経損傷後のリハビリにおける運動野機能や,パーキンソン病などにおける運動失調の理解が大きく進展し,精神・神経疾患の運動失調に対する新たな治療方法の開発が期待できるとしている。