神戸大学,名古屋大学,高輝度光科学研究センターは共同で,太陽光を用いて水から水素を高効率に生成できる光触媒電極の開発に成功した(ニュースリリース)。
光触媒に光が照射されると,触媒表面に電子と正孔が生成し,この電子が水の水素イオンを還元することで水素が生成する。これまでの光触媒は生成した電子と正孔のほとんどが触媒表面で再結合してしまうため,光エネルギー変換効率が伸び悩んでいた。
この再結合を抑制するためには,電荷を空間的に分離させた後,電子を透明電極基板まで,正孔を光触媒の表面まで運ぶ必要がある。研究グループは,ナノ粒子の配向を揃えて三次元構造化した「メソ結晶」をソルボサーマル法によって合成し,さらに,メソ結晶を透明電極基板に集積させたメソ結晶光触媒電極を開発した。
具体的には,チタン(Ti)を含むヘマタイト(赤錆:Ti-Fe2O3)メソ結晶を透明電極基板上に塗布し,700℃で加熱することで,メソ結晶光触媒電極を作製した。メソ結晶表面に助触媒を付着させ,アルカリ水溶液中で擬似太陽光を照射したところ,1.23Vの電圧印加の下,3.5mAcm-2の光電流密度で水分解反応が進行することがわかった。
これは,生成ガスによる光散乱の影響を受けにくいとされる透明電極基板側からの光照射下における,世界最高レベルの性能だという。
高効率化の要因として,まず,メソ結晶技術によって粒子同士の接合界面を整えることで,粒界抵抗を約5分の1まで低減できたことがある。ふたつ目に,メソ結晶を高温で加熱することで粒子界面に酸素空孔が生成し,伝導電子の密度が飛躍的に増加することがわかった。それにより、メソ結晶表面に大きなバンドの曲がりが生じ,初期の電荷分離が促進される。
この酸素空孔の形成は,粒界が制御させたメソ結晶特有の現象。さらに,加熱によって粒子内部のTiが表面に拡散し,数nm程度の二酸化チタン(TiO2)の膜を形成することがわかった。このTiO2膜は表面欠陥を被覆し,再結合を抑制する役割を果たすという。
ヘマタイトは,自然界に豊富に存在し,広範の可視光を吸収できる有望な光触媒材料のひとつ。今回,効率向上のボトルネックである再結合損失をメソ結晶技術によって大幅に低減できることがわかった。
研究グループは今後,産学協働でヘマタイトメソ結晶光触媒電極のさらなる高効率化とデバイス化を進めると同時に,メソ結晶技術を他の光触媒材料に適用することで,太陽光水素製造システムの早期実現を目指すとしている。