東北大学は,米マサチューセッツ工科大学,物質・材料研究機構の研究グループと共同で,スピンホールトンネル分光法と弱反局在解析を併用することにより,プラチナPt薄膜のスピンホール角を正確に評価することに成功した(ニュースリリース)。
PtやTaなどの重金属はスピン軌道相互作用が強くスピンホール角が大きいことが報告されているが,その値は測定方法によって大きくばらついていた。
これは従来のスピンホール角は金属/磁性体の2層構造を用いて調べられてきたので,磁気的近接効果や金属原子と磁性原子のマイグレーション効果による影響を無視することができなかったため。
スピンホールトンネル分光法はトンネル絶縁層を介してPtなどの金属から磁性体が離れているためこのような問題は生じないが,この方法はスピン拡散長を仮定してスピンホール角を評価する必要があるとともに,異方性磁気抵抗効果や異常ホール効果が及ぼす影響を無視できない問題点が指摘されていた。
研究グループは今回,スピンホールトンネル分光に用いる素子構造を作製した。これによって発生するスピンの方向に依存したホール電圧の大きさから電流―スピン流の変換効率(スピンホール角)を求めることができるが,スピンホール角を正確に求めるためにはスピン拡散長を測定する必要があった。
研究グループはPt薄膜の弱反局在解析を行ない,スピン拡散長を求め正確にスピンホール角を求めることに成功した。また磁性体の磁化方向(スピンの向き)の角度依存性から磁性体の異方性磁気抵抗効果や異常ホール効果は無視しても良いことを確認した。
Ptの抵抗率とスピンホール角の温度依存性を詳細に調べた結果,バンド構造に起因した内因性のスピンホール伝
導率については,これまで報告されている値とほぼ一致し,結晶の乱れ等外因性由来する部分でスピンホール角に差が生じていることを見出した。
スピンホール角は電流とスピン流の変換効率に対応し,スピン軌道トルクやスピンゼーベック効果の大きさを決める重要なパラメター。今回の方法によりPtやTaなどの重金属だけでなく,トポロジカル絶縁体や二次元層状物質など新材料のスピンホール角を正確に評価することが可能となる。
また,スピンホール角はスピン軌道相互作用の起源解明や次世代MRAMなどのスピンデバイスを設計するうえで最も重要な値であることから,今回の成果はこの分野の発展に大きく貢献することが期待されるとしている。