東北大学は,鉄と白金からなる合金が,異常ホール効果によって巨大なスピンの流れを創り出すことを発見し,このスピンの流れを使って,磁石の極性をスイッチさせることに初めて成功した(ニュースリリース)。
メモリ応用を視野に入れたスピントロニクス素子への情報書き込みには,磁石の性質を持たない非磁性体の中で生じるスピンホール効果を利用する手法が有力候補だが,磁化スイッチングには外部磁場が別途必要になるという問題がある。
異常ホール効果によってスピン流を生成するスピン異常ホール効果は,スピン異常ホール効果の発生源となる強磁性体の磁化の方向により,スピン流の分極方向を制御できるため,外部磁場が無くとも磁化をスイッチングできる可能性がある。
しかし,スピン異常ホール効果の変換効率は 10%程度であり,磁化をスイッチングさせるのに十分な変換効率は得られていなかった。
今回,研究グループは,スピン異常ホール効果を発現する材料として鉄白金(FePt)合金に着目。FePt合金の薄膜の上に非磁性体の銅(Cu)と鉄ニッケル(FeNi)合金磁石を積層させた巨大磁気抵抗(GMR)膜を作製し,FePt合金層のスピン異常ホール効果によって生成されたスピン流がFeNi合金層の磁化に与える影響を調べた。
FeNi合金層の強磁性共鳴スペクトルの線幅の変化から,スピン異常ホール効果の変換効率(スピン異常ホール角)を見積もったところ,25%にも達することがわかった。この効率は,非磁性金属のスピンホール効果を利用した場合に得られる変換効率に匹敵する。
次に,FePt 合金層のスピン異常ホール効果を利用してFeNi合金層の磁化をスイッチングできるかを検証した。今回,GMR効果を介してFeNi合金層の磁化方向を検出したところ,スピン異常ホール効果を用いて磁化をスイッチングできることが実証された。
今回得られた成果は,異常ホール効果の新しい機能性を実証し,情報書込みという新たな用途を切り開くもの。スピン異常ホール効果を用いるとスピン流の分極方向を制御できるので,例えば3端子構造のスピントロニクス素子に組み込めば,外部磁場が無くとも磁化をスイッチングできると考えられるという。
研究グループは,今回の究成果を契機に,スピン異常ホール効果を用いたスピントロニクス素子の研究開発が加速すると期待している。