東北大学と物質・材料研究機構の研究グループは,共役高分子ポリジアセチレンのナノファイバーと銀ナノ粒子とのハイブリッドナノ薄膜を作製し,ハイブリッドナノ薄膜が高い感受率を示すことの実証に成功した(ニュースリリース)。
現在のCMOSコンピューティングを構成する電子デバイスの限界が認識され,これに代わる次世代の光デバイス・光コンピューティングが量子暗号通信技術も含めて最近注目を集めている。
その背景には,表面プラズモン共鳴やファノ効果,メタマテリアルなどのナノフォトニクスに関する急速な理解が深まったことがある。その核心となる基盤材料のひとつが非線形光学材料だが,これまで極めて高機能・高性能な非線形光学材料・素子,とりわけ「三次有機非線形光学材料」を創出できるかがボトルネックとなっていた。
研究グループは,今回,超高速光応答性を示す現在最も有望な非線形光学材料である有機系の共役高分子ポリジアセチレンに注目し,そのナノファイバー化を行ない,銀ナノ粒子とのサンドイッチ型ハイブリッドナノ薄膜を創製した。
このハイブリッドナノ薄膜は,静電吸着法を用いて銀ナノ粒子の堆積薄膜を基板上に作製し,さらに対流自己集積法によりポリジアセチレンナノファイバーの配向薄膜を作製した後,再度,銀ナノ粒子の堆積薄膜を形成したもの。
ハイブリッドナノ薄膜の内部でポリジアセチレンナノファイバーと銀ナノ粒子は直接接触している。また,ポリジアセチレンナノ結晶と比較して,ナノファイバーの方が優れた非線形光学特性を示すことをすでに明らかにしていた。
研究グループは,分光エリプソメトリーによる線形光学特性の計測とポンプ−プローブ分光法から得られた独自の過渡透過スペクトル変化(非線形成分)の複合解析により,三次非線形感受率(実部と虚部)の波長分散を評価した。その結果,ハイブリッドナノ薄膜における三次非線形感受率の向上を確認した。
実際に,三次非線形感受率をハイブリッドナノ薄膜の吸収係数で補正した「性能指数」(FOM)で比較すると,ポリジアセチレンナノファイバーのランダム無配向薄膜のFOM=2.2に対して,配向薄膜ではFOM=6.3,ハイブリッドナノ薄膜ではFOM=15.2と約7倍程度の増強に成功したという。
研究グループは,今回の研究成果は次世代の超高速光スイッチングデバイス用の素子材料としての優れた有機系ハイブリッド非線形光学材料に対する新たな設計指針・グラウンドデザインを示唆する極めて重要な知見となるとしている。