大阪大学,自然科学研究機構核融合科学研究所,広島大学,レーザー技術総合研究所,北京物理学研究所の研究グループは,従来の研究よりも約10倍長い4psにわたって,高強度レーザーをプラズマに照射し続けることにより,レーザーによる電子加速の効率が,従来法と比べて4倍以上向上することを発見した(ニュースリリース)。
高強度レーザーをプラズマに照射して電子やイオンが加速するレーザー加速器は,従来の加速器よりも高いピーク強度を有するビームを生成できる。加速エネルギーの向上のために,レーザーの高強度化が競われているが,装置への負荷が大きくなっていた。
今回の研究で用いたLFEXレーザーは,チャープパルス増幅法を利用し,1キロジュール(0.25キロカロリー)のエネルギーを持つ光を1psの時間に圧縮し,特殊な鏡を使用して半径100分の1mmに集めることで,針の先ほどの小さな領域にギガバール(約10億気圧)という高い圧力を持つ光の塊を作る。
このような高強度レーザー光は,物質を構成する原子から電子を容易に剥ぎ取り,物質をプラズマ化し,プラズマに含まれる電子を瞬時に光速まで加速する。
今回の研究ではこの高強度レーザーを物質に照射し続けることで,プラズマ中にキロ・テスラ級の磁場を突発的に発生させ,レーザーによる電子加速の効率を4倍以上に増大させることに成功した。
突発性磁場は次の4つの段階を経て成長する。
1.レーザーにより高温に加熱されたプラズマ中ではドリフト電流という静電場と静磁場が作る電流が存在する。
2.ドリフト電流により電子が流入した領域では電子が増えることで静電場が強くなる。
3.ドリフト電流の周りでは静磁場が増強される(電線の周りに磁場が出来るのと同じ原理)。
4.増強された静電磁場はさらに強いドリフト電流を流す。
この1~4の流れを繰り返すことでドリフト電流・静電場・静磁場の3者の間に,お互いに相手の増大を促す関係が構築される。一度,この関係が構築されると,急激に磁場が成長し,キロ・テスラ級にまで成長することがわかった。この強磁場は地上最大級で,星表面の強度に匹敵する。
この突発性磁場は電子にとっては高い壁の役割を果たす。電子が高い壁を越えるまで,何度も繰り返しレーザーからエネルギーを受け取り,電子が高エネルギーに加速されることがわかった。
さらに,今回の研究では突発性磁場を発生させるメカニズムを解明し,高効率な電子加速を得るのに必要な照射時間を予測する方程式を導出した。この方程式を使うことで,複雑なシミュレーションを行なわずとも,高効率に電子を加速するのに必要なレーザーパルス幅(照射時間)を決定できるという。
研究グループは,今回の研究はレーザー核融合エネルギーの実現に貢献すると共に,小型医療用粒子線加速器などへの応用も期待できるとしている。