北大,ロケット上で光学測定

北海道大学の研究グループは,アメリカ航空宇宙局(NASA)の観測ロケットBlack Brant IX 343号機を用いて,「ケイ酸塩宇宙ダストの核生成過程の解明」を目的とした微小重力実験を実施した(ニュースリリース)。

この実験は,宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の小規模計画「DUST」として,NASAとの国際協力のもとに実施された。この計画は,138億年の宇宙史における物質の創成史を確立することを目的として,2017年に構築した国際共同研究のもとで進めている。

今回は,宇宙物質の主役の1つであるケイ酸塩(シリコン,マグネシウム,鉄を主成分とした鉱物)に注目した。宇宙ダスト(星のかけら)と呼ばれる微粒子は,天体より放出されるガスから生成する。ケイ酸塩微粒子がガスから生成する過程の理解は,天体の放出ガスから微粒子を経て惑星に至るまでの固体物質の変遷を知るカギとなる。

そこで研究グループは,ロケットの弾道飛行による微小重力環境を利用して,高温のガスからケイ酸塩宇宙ダストを模擬した微粒子が生成・成長する過程を直接測定することで,生成過程の理解を目指した。

今回の実験では,屈折率変化を100万分の1以下の精度で捉えられる小型の2波長レーザー干渉計を作製してロケットに搭載することで,生成時のガスの温度と濃度を同時に決定した。気体の屈折率は温度,濃度,レーザー波長の関数となる。したがって,異なる2波長の光を微粒子生成環境に入射して屈折率変化を同時に得れば,簡単な計算の後に温度と濃度の情報を求めることが可能となる。

加えて,今回の実験では,核生成過程の微粒子の赤外スペクトルを測定するため,過去に日本の観測ロケット実験で開発した「浮遊ダスト赤外スペクトルその場測定装置」の改良版を搭載した。中間赤外領域は鉱物にとっての指紋領域で,非晶質から結晶への変化や,その結晶構造の同定を行なうことができる。

実験の結果,ケイ酸塩微粒子の生成過程の理解に最も重要な表面自由エネルギーと付着確率を求めるために必要なデータの取得に成功した。

もう1つの主役である炭素質微粒子に関して,2019年6月にスウェーデン宇宙公社の観測ロケットを用いて微小重力実験を実施している。研究グループは,今回の結果と合わせることで,宇宙における物質進化の理解が飛躍的に進むとしている。

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