東京工業大学と金沢大学の研究グループは,遷移金属を含まない有機薄膜太陽電池(OPV)のアノード電極を物理的に剥がし,触媒を付与することで高効率な光触媒として作用させることに成功した(ニュースリリース)。
近年,地球に降り注ぐ莫大な量の太陽光エネルギーの有効活用が求められる中で,太陽光発電や光触媒による水素生成などが実用化され,普及が進められている。
しかし,現在実用的に用いられている酸化チタンを使用する光触媒は紫外線にしか応答しない。そのため,可視光に応答する光触媒の研究が盛んに行なわれており,さまざまな遷移金属の複合化が検討されている。
一方で有機材料は,可視光応答化が容易な一方で不安定であるという理由から,これまで水中や空気中で光触媒として働かせることは困難だった。
研究グループでは,フタロシアニンという有機材料を用いたp型半導体とn型半導体の接合が,光触媒として利用できることを発見し,この10年以上検討を進めている。近年は,欧州のグループもこの分野に本格参入する中,東京工業大学は,さらなる低コスト化を図った大量生産法を開発し,企業に技術移転している。
一方で金沢大学では,逆型有機薄膜太陽電池という太陽電池の開発を進め,社会実装試験を進めてきた。これは,大気中で製造可能で封止をせずに安定に作動するタイプであり,これまでの太陽電池に比べて圧倒的に材料・製造コストが低く,軽量で毒性が低いという特長がある。
今回の研究では,この両技術を複合化し,酸化電位の利得を大きく得ることに成功した。具体的には,逆型有機薄膜太陽電池の電極の片側であるアノード電極を物理的に剥離させ,この表面にフタロシアニンを8nm蒸着させた。
その結果,通常のp-n接合よりも大きな酸化力を持つ有機光触媒が得られた。この有機光触媒は,銀塩化銀標準電極に対して-0.35Vという,通常は酸化反応の起こりにくい負の電位で酸化反応を起こすことが確認された。太陽電池骨格を母材とするため,一方向的な電子輸送が起こる。そのため,表面では酸化反応のみが起こる。
新たに作成された新型の有機光触媒は,可視光照射で高効率に酸化反応を引き起こす能力を有する。この成果により,設置と片付けが容易なため,従来にない用途を持つ新しい光触媒の設計が可能になると期待されるとしている。