東京大学の研究グループは,ゲルマナン単結晶を用いたトランジスタを開発し,p型,n型の両側トランジスタ動作を初めて観測した(ニュースリリース)。
半導体として広く使われるシリコンやゲルマニウムをグラフェンと同じ構造にしたシリセン,ゲルマネンといった物質は空気中で不安定だが,ゲルマネンに水素を添加して化学的に安定化したゲルマナンが最近開発された。
ゲルマナンは大面積の単結晶を剥離できること,理論計算から半導体としての性能を示す電子移動度が室温で18,000cm2/Vsとゲルマニウム単結晶より大きいと予測されること,バンドギャップも1.6eVと広いことなどから,半導体デバイスとしての応用が期待されている。
今回の研究では,ゲルマニウム単結晶の上に分子線エピタキシー法を用いて薄膜として前駆体であるCaGe単結晶を作成し,塩酸で処理することで剥片でなく数百nmの厚さをもつ薄膜としてゲルマナン単結晶を作成した。
透過型電子顕微鏡での観察結果から,ゲルマナンが基板の上に広い範囲で平坦なエピタキシャル薄膜として成長していることがわかった。この薄膜に対してイオン伝導性のイオン液体をゲート絶縁層の代わりに用いる電気二重層トランジスタというデバイスを作成した。
作成したデバイスに240Kで正のゲート電圧を印加すると負の電荷をもつ電子が伝導キャリアとして働き,逆に負のゲート電圧を印加すると正の電荷をもつホールが伝導キャリアをして働き,どちらの電圧でも電流が増幅された。これらの伝導キャリアの符号はホール測定からも確認されたという。
さらに,温度を下げながらホール測定を行うことで伝導キャリアの移動度を評価したところ,ゲルマナンの電子の移動度は200Kで800cm2/Vs程度と遷移金属カルコゲナイドより高い値を示した。
さらに,温度を下げるとともに移動度は6,500cm2/Vまで急激に上昇した。この低温での移動度はゲルマニウム単結晶での移動度に比肩する。
一方,ホールの移動度は200Kでは200cm2/Vs とそれほど高くはないものの、既報のゲルマナン剥片を用いたFETよりはずっと高い値を示した。
また,低温では電子と同様に上昇し,600cm2/Vs程度に達した。これらの値はゲルマナンのエピタキシャル薄膜が従来の剥片よりも品質が高く,高い移動度や良好なトランジスタ動作が得られたことを示唆するという。
研究グループは,今回の研究で得られた高品質のゲルマナン薄膜をさまざまな基板へ転写するなどの応用技術を進めることで,層状物質を用いてシリコントランジスタに並ぶ性能を持つトランジスタが実現できると期待されるとしている。