早稲田大学と凸版印刷の研究グループは,文化財VRコンテンツの鑑賞によって,鑑賞者自身の文化財に対する「見方」を変化させ,興味や関心を増進させる影響源となり得ることが示唆されたと発表した(ニュースリリース)。
研究グループは,立体視映像(3D)化技術を用いた文化財の新たな鑑賞方法の提案・評価を行なってきた。今回,これまで蓄積した知見や技術をVRに適用し,文化財VRコンテンツの鑑賞者に与える影響について検証を行なった。
特に,文化財のVR表現による興味や関心,理解などへの影響を実験的に検証することで,文化を伝達するコミュニケーションメディアとしてのVRの有効性を評価することを目的とした。
今回の研究では,凸版印刷が文化財VRコンテンツを制作・公開してきたプラットフォームである,シアター型のVR表現を対象とした。そして,VRの鑑賞前後に日本文化の特徴を含む静止画像を呈示し,「見方」や主観的な好ましさが,どのように変化するかを測定・解析した。
VR空間内にVRシアターを構築し,視線計測機能付きVRヘッドセットを用い,VRおよび静止画像鑑賞中の実験参加者(15例)の注視点を測定・解析した。また,静止画像の鑑賞後に,美しさ,好ましさ,興味深さについて質問した。
実験では,る国宝「八橋蒔絵螺鈿硯箱」を対象としたVRコンテンツを選定した。硯箱の外観や内部構造に加え,硯箱の内側から外観を透過して鑑賞するといったVRならではの視点を,ナレーションと共に表現した。また,日本文化の特徴を含む静止画像には,和舞踊,和食器,和室の3種類を選定した。
視線計測の結果から,VR鑑賞後は画像に含まれる特徴領域への注視時間の延長が認められた。実験後のインタビューからも,VR鑑賞後に和服や食器のテクスチャに気づき,見るようになったという意見が聞かれ,質問回答からは,VR鑑賞後の静止画像に対する興味深さの上昇が認められたという。
この結果は,VR表現が文化財の「見方」を変化させ,「興味や関心」を増進させる影響源になり得ることを示唆し,文化財とのコミュニケーションにおけるVR表現の有効性を示していると考えられるという。
研究グループは今後,この研究で得られたVR表現の有効性をコミュニケーションツールとして活用し,異文化間でのグローバルな文化理解の促進に応用していくとしている。