金沢大学とスペイン サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の研究グループは,鏡像異性体(エナンチオマー)を分離する能力である光学分割能を異なる3つの状態に自在に切り替え可能な,革新的な高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のキラル固定相を開発した(ニュースリリース)。
キラル化合物の鏡像異性体は,その物理的・化学的性質がほとんど同じであるため,一般に分離するのが非常に難しい。しかし,鏡像異性体間で生体に対する効果が全く異なることから,特に医薬・農薬などの生理活性物質の開発において,鏡像異性体の分離・分析は欠かすことができない。
キラル固定相を用いたHPLCによる鏡像異性体の分離は,分析と分取の両方に有効な方法であり,これまでにさまざまなキラル固定相が開発されてきた。しかし,既存のキラル固定相では分離・分析が困難なキラル化合物が未だ多く存在しているため,新しいタイプのキラル固定相を開発することは非常に重要な課題となっている。
研究グループは,溶液中で金属イオンに応答してその巻き方向が変化するらせん高分子が,固体状態でも金属イオンを含む溶液で処理することによってらせんの巻き方向を3つの状態(右巻き,左巻き,右巻きと左巻きの等量混合状態)に制御できることを見いだした。
さらに,このポリマーをシリカゲルにコーティングしてHPLC用のキラル固定相として応用し,ナトリウムイオン(Na+)もしくはセシウムイオン(Cs+)を含む溶離液をカラム内に通液する前処理でらせんの巻き方向を制御することによって,異なる光学分割能を示す3つの状態に自在に切り替えが可能なキラル固定相として機能することを実証した。
この新しい固定相は,従来のキラル固定相とは全く異なり,同じキラル固定相を利用して標的物質に応じて最適な光学分割能を示す状態を選択できるだけでなく,鏡像異性体の溶出順序を反転することも可能になるという。
この研究成果は,光学分割能を多段階に切り替え可能なキラル固定相を開発するための新しい戦略を提供したもので,医薬品等の研究開発などキラル化合物を扱うあらゆる分野の発展につながることが期待されるとしている。