国立精神・神経医療研究センター(NCNP)と京都大学の共同研究グループは,光遺伝学を用いて,触覚や筋感覚に関わる感覚神経の活動を選択的に活性化させることに成功した(ニュースリリース)。
パラリンピックの種目の一つであるブラインドサッカーの選手は,視覚情報がなくても皮膚や筋に多数存在するセンサー(関節の位置や角度を伝えるセンサー)から脳に送られてくる情報をもとに,自分の手足の時々刻々の位置や変化を瞬時に認知し(自己運動感覚),それによって自分の運動をさらに制御するという繰り返しによって競技をこなす。
このような自己運動感覚は新しい運動技能を習得する上で重要な役割を果たすだけでなく,神経障害などによりこの機能が障害されると,協調的に手足を動かすことが困難になる。
このように自己運動感覚の重要性は広く認知されているが,神経科学的な証明はされていなかった。そのためには,感覚情報を人為的に変化させてその際の神経活動を調べる必要があるからだが,自己運動感覚は運動に付随して身体内で自動的に生まれるため,外的に操作することができない。
そこで研究グループは,自己運動感覚に光遺伝学的手法を応用しようと考えた。そのためには,脊髄後根神経節にある異なった種類の感覚神経細胞の中から,自己運動感覚を伝える神経細胞のみに遺伝子が導入され,光刺激に対して十分に応答するような最適な条件を探索しなければならない。
研究グループは様々な条件の組み合わせを網羅的に調べることで,自己運動感覚に関与する神経細胞を標的に光感受性タンパク分子を遺伝子導入し,光刺激によって活性化された感覚信号が,運動に関連した感覚を選択的に活性化することが可能であることを証明し,その活動を選択的に制御する手法を世界で初めて確立した。
この研究の成果により,私たちの巧みな運動の制御を可能にしている神経機構の理解や運動の感覚関わる感覚神経の機能障害に対する治療法の開発が進むことが期待されるという。具体的には,脊髄損傷や脳損傷などで鈍化した触覚を正常レベルに戻すなど,新たな遺伝子治療に展開することが期待されるとしている。