奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)と米オハイオ大学の研究グループは,隣接させて配置した2つの歯車状の分子が,実際の歯車のように互いに噛み合って逆方向に回転することを見いだした(ニュースリリース)。
この数十年来,さまざまな生体分子が示す多様な動きや働きを,人工的に合成した分子で実現しようとする研究が行なわれてきた。これらの機械のように働く「分子マシン」は活発に研究されている。「身近な機械のように動作する」分子マシンが構築できれば,メモリーやセンサーなどを分子サイズで作製できるようになると期待されている。
研究グループは,実際の機械の構造や動き,機能から着想を得た分子マシンの開発および,その分子マシンを走査型トンネル顕微鏡(STM)により単分子レベルで操作する研究を進めてきた。
今回の研究では,一方向にのみ回転するプロペラ状の分子モーターを用いて,2つの噛み合わせ歯車を作った。実際の歯車のように2つのプロペラ状の部分が噛み合いながら,互いに逆方向へ回転し,実際の分子間で機械運動が伝達することを初めて実証した。
具体的には,これまでに開発された分子モーターを金属基板上に吸着させたところ,5つのベンゼン環を持つ部分を土台にして,三脚型の分子ユニットが上向きに吸着していた。金属基板上に吸着したこの分子は,金属基板に接している土台部分の5つのベンゼン環が右または左に傾くことで,上部の三脚ユニットがプロペラ状の右巻き(P体)と左巻き(M体)の構造をとっていることがSTM観察から明らかになった。
プロペラ部分をSTMの探針を用いて操作すると,右巻きの分子では,プロペラ部分が反時計回りに,左巻きの分子では,プロペラ部分が時計回りに一方向に回転した。
さらに,右巻きの分子モーターと左巻きの分子モーターが,基板上で隣接して配置されたときの回転の挙動についても検討を行なった。その結果,一方のプロペラ部分を回転させると,隣り合うプロペラ部分が,あたかも歯車のように噛み合いながら逆方向へと回転することがわかった。
今回の発見は,分子のような非常に小さな構造体においても,回転運動が実際の機械のような仕組みで伝達される動作を観測した初めての例という。
研究グループは,この研究で見いだした知見を拡張していけば,複数種の分子マシンが協同的にはたらく分子システムの構築が可能になると考えられ,また,このような分子システムは,ナノサイズでの物質の輸送,情報やエネルギーの伝達が可能なナノデバイスへの応用が期待できるとしている。