大阪大学,千葉大学,伊IOM-CNR,電力中央研究所の研究グループは,有機半導体中での高い電荷移動度が有機分子のフレキシブル性に由来することを世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。
これまで,有機半導体単結晶での高い電荷移動の機構は,現在半導体デバイスで用いられているシリコンなどの無機デバイスでの機構と同じで,物質のバンドを通るバンド伝導であると考えられていた。
しかし,理論計算より求められた理想的な値よりも,欠陥などによって低くなるはずの実験値で高い値が報告されるなど,有機半導体単結晶の電荷移動機構には多くの未解明な点があった。また,電荷移動機構に関する有益な情報を与える光電子分光測定において,光照射で有機分子が壊れたり,測定中に物質内でチャージアップが起こったりするために電子バンドを正確に求めることが困難だった。
研究グループは,これらの問題を解決するために光を照射しても分子の破壊やチャージアップが起こらない非常に品質の高い有機分子固体単結晶の作製した。
この試料を用いて角度分解光電子分光測定を行なったところ,バンドの幅が理論計算によって推測されたものよりもはるかに小さいことを明らかにした。また,これまでは1つの電子バンドしか観測されていなかったが,今回2つ存在することが明らかになった。
この結果と,光電子回折効果や,今回の測定温度が理論計算で用いた試料温度-273°Cと全く違う25°Cであることなどを考慮した結果,ルブレン単結晶における高い電荷移動度が,有機分子の曲がりや回転などのフレキシブル性に起因していることがわかったという。
研究グループは,電荷移動機構の理解が半導体デバイスの性能向上に必須であることから,この結果は次世代高機能有機デバイスを設計するために不可欠な情報としている。