熊本大学は,仏国立科学研究センター(CNRS),独マールブルク大学,物質・材料研究機構(NIMS),新潟大学,東北大学,仏ラウエ・ランジュバン研究所(ILL)および英バース大学と協力し,放射光X線を利用したX線異常散乱実験および強力中性子源を用いた中性子回折実験を行なうことにより,最も古くバルク状で得られたパラジウム・ニッケル・リン系金属ガラスPd40Ni40P20の原子の並び方の特徴を捉えることに成功した(ニュースリリース)。
金属ガラスは,優れた磁性材料として着目される新素材で,非常に高い強度と耐食性を持つ。今回研究対象としたPd40Ni40P20は,水中で急冷されるだけで,液体状態から結晶ではないバルク状の金属ガラスを形成することができる合金。
Pd40Ni40P20のガラス形成能は極めて高く,その特徴を検討するため,原子配列や電子状態について数多くの研究がされてきたが,決定的な結論は得られていなかった。
今回の研究では,原子配列について,Pd,Ni,Pそれぞれの元素の役割を区別して,それぞれの元素が持つ特徴を見出すことに焦点を絞るため,X線異常散乱実験や中性子回折実験によって,元素の寄与が異なる4種類のデータを世界最高の精度で収集した。
得られた結果の解析には,逆モンテ・カルロ法を用い,これによって得られた原子配列の検討には,ボロノイ法とパーシステント・ホモロジー法を用いた。ボロノイ法では,隣接する原子の並び方を検討し,パーシステント・ホモロジー法では,より広い距離範囲で原子の特徴的な並び方がないか検討を行なった。その結果,Pd40Ni40P20の原子の並び方にガラスになりやすい特徴を見出した。
研究グループは,この研究により,なぜ金属原子が結晶として整列せず,ランダムに並ぶガラスとなり得るのかという,これまであいまいであった特徴をあぶり出すことができたという。また,これまで経験的にしか語られることがなかったガラス形成能(ガラスになりやすさ)に一定の指針を与えることができ,今後の金属ガラスの新規材料開発に新たな指針を与えるものとして期待できるとしている。