京都工芸繊維大学の研究グループは、赤外線領域でのレーザーなどの光素子への応用が期待されるビスマス含有半導体の高品質化の指針を明確化した(ニュースリリース)。
ビスマス含有半金属半導体合金GaAsBiは,GaAsN,GaNP,ZnOSeなどと同じく,原子サイズや電気陰性度,イオン化エネルギーなどが大きく異なる元素を含むhighly mismatched alloys(高不整合合金)と呼ばれる。
GaAsBiでは高不整合合金であるが故の,その特異な電子構造を反映して,GaAsBiでレーザーダイオードを製作すれば発振波長の温度無依存化が進められる。また,Bi 組成が10%以上のGaAsBiでは,その特異な電子構造から発光効率が大幅に向上すると予測されている。さらに,通信波長帯の赤外線レーザーに応用すれば,発光効率が向上し,より小さな電流でレーザー発振が実現できると期待されている。
研究グループはGaAsBiレーザーダイオードの発振波長の温度無依存化を実証しているが,一方でGaAsBiレーザーでレーザー発振を得るための電流値が大きく,実用レベルと比べて1桁以上大きい状態であった。
GaAsBiをレーザーや太陽電池などのフォトニックデバイスに応用するうえで,テイル準位(裾準位)と呼ばれる結晶欠陥の低減が重要となる。GaAsBiレーザーの駆動電流が大きすぎるのは,GaAsBi内に存在する大量のテイル準位のせいであると考えられている。
今回研究グループは,ビスマス含有半金属半導体合金の製作とデバイス試作,さらに特性評価を本グループ内で一貫して進めた。このとき,フォトダイオードの光応答スペクトルの測定によるテイル準位の定量的な測定が今回の成果の鍵となったという。
その結果,GaAsBiの製作温度を360℃から380℃にわずか20℃上昇するだけで,GaAsBi 中のテイル準位の形成を抑制できることを明らかにした。400℃以上で顕著になる Bi原子の再脱離を抑制しつつ,できるだけ高い温度で精密に温度を制御する必要があることを明らかにした。また,テイル準位の量と発光特性の関係も定量的に明らかにした。
研究グループは今後,今回得られた結果をもとに,GaAsBiレーザーの駆動電流の低減やGaAsBi太陽電池の特性向上を進める予定だとしている。