産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,薄い樹脂フィルムの表面に感度の高い温度検出部を多数配列させた温度分布センサーシートを開発した(ニュースリリース)。
近年,薄い基板の表面に温度検出部を配列させた温度分布センサーシートの開発が進められているが,計測可能な温度範囲が狭いため用途が限られていた。また温度の計測精度についても課題があった。
今回開発した温度分布センサーは,樹脂フィルムの表面に格子状に並べた多数の温度検出部によって温度分布を測定する。計測可能な温度範囲を5~140℃と大幅に拡大したことでさまざまな温度計測への応用が可能となった。また,測定精度は各温度で±1℃で,0.3℃という温度差も見分けることができるため,温度の分布を高精細に取得することができる。
今回の開発では,幅広い温度に対応でき,温度によって大きく電気抵抗が変化する抵抗体(感温性抵抗体)を各温度検出部に用いることで温度分布センサーシートの高性能化に成功した。この感温性抵抗膜は独自に配合した導電インクを印刷することで形成される。
導電性の微粒子を,熱膨張率が高く耐熱性を有する樹脂に最適な比率で分散させることで,温度に応じた膜の体積変化により内部の導電粒子同士の距離が大きく変化し,抵抗値の温度変化がもたらされる。この高感度な温度検出部により,ゆるやかな温度分布でも各感温性抵抗体の抵抗値が明確な違いを示すので,温度分布を的確に捉えることができる。
今回,熱膨張率の低い樹脂と導電性の微粒子を混合したインクを印刷することで,温度に対して安定な抵抗値を示す導電層が形成可能となった。感温性抵抗体,XおよびY電極線,絶縁膜はいずれも一般的なスクリーン印刷法で形成できるため,シートの大面積化や低コスト生産に十分対応できるという。
このシートは,従来の赤外線サーモグラフィーでは困難だった様式の温度分布計測を可能にする。また,気流計測にも応用できる。温度分布センサーの基板である樹脂フィルムの裏面に電熱線を形成し,シート全体を加熱しておき,気流を受けた際に熱が奪われて生じる温度分布から気流の速度分布を取得できる。シートの厚みは50μmと薄いため,角のある自動車模型にも追従して貼り付けて固定できるとする。
研究グループは,今後,開発した技術の実用化に向けた企業連携を広く推進するとしている。