東京大学の研究グループは,肉眼では判別が難しい前立腺がんの迅速蛍光検出を実現する新規蛍光試薬を開発し,手術中に前立腺組織中に存在する微小がん病変の検出を可能とした(ニュースリリース)。
前立腺がんは,日本でも年々患者数が増加しているがんで,取り残しによる再発や転移を防ぐために全摘出手術が行なわれている。しかし,全摘除術では神経を傷つけることがあるため,前立腺がん部位だけを高感度に可視化できる手法の開発が強く望まれていた。
研究グループは,PSMAと呼ばれる前立腺がんマーカーに着目した。PSMAは前立腺がん細胞表面に特異的に高発現している蛋白質で,PSMAを標的としたPET検査薬やがん治療薬が多数報告されるなど,臨床的にも有用な前立腺がんマーカーとして近年注目されている。
今回の研究では,PSMAによって分解される分子骨格を新たに見出し,また,光誘起電子移動という光化学的な蛍光制御機構を分子設計に取り入れることで,世界で初めてPSMAのカルボキシペプチダーゼ活性を高感度に検出する蛍光プローブの開発に成功した。
この蛍光プローブ自体はほとんど蛍光を発しないが,がん細胞の形質膜に多く発現しているPSMAによって分子内のグルタミン酸が加水分解されると,強蛍光性の分子へと変換されて100倍以上明るく光る性質を持つようになり,この強蛍光性分子が細胞膜を透過して細胞内へと導入され,前立腺がん細胞を明るく光らせることがわかった。
さらに,開発した蛍光プローブを前立腺がん患者の外科手術検体にかけたところ,30分位内に前立腺がんが存在する部位を蛍光検出することができた。一部のがんは1cm未満の小さながんであり,肉眼や既存のイメージング法(MRI・PET・CTなど)では検出することが難しいサイズのがんも,迅速に明るく描出できることが示されたという。
研究グループは,開発した試薬を手術中に用いることで前立腺がん病変を迅速に検出することができるようになれば,がんの取り残しを防ぎながら,術中に必要十分な切除範囲を判断しやすくなり,術後QOLの向上・再発防止などが期待できるとしている。