東京農工大学の研究グループは,金属ナノ構造体の電子が光によって集団振動する際に生じる熱(プラズモン熱)と熱電変換を組み合わせた新しい光検出技術を実現した(ニュースリリース)。
光検出器の多くは,半導体が光のエネルギーを吸収することで電子の運動が変化する(光を電気に変える)性質を利用している。
半導体が吸収できる光の波長(応答波長)は,半導体の種類によって決まるため,光検出器の応答波長を制御するためにはカラーフィルターを装着して入射光の波長を制限する必要がある。また半導体の応答波長域を変えるために,半導体の組成や構造を制御するのは容易なことではない。
研究グループは,長さ150nm,幅70nmの銀ナノロッドのプラズモンと有機熱電変換材料を組み合わせた,新しい機構で駆動する光検出器の実現に成功した。
この光検出器の特徴は,銀ナノロッドのプラズモン共鳴波長(金属中の電子が集団振動する光の波長)において顕著な電流発生が起こること。銀ナノロッドのプラズモン共鳴波長は,銀ナノロッドの形やサイズによって容易に制御できるので,カラーフィルターが不要な光検出器といえるとする。
実際に,銀ナノロッドの長軸および短軸偏光下におけるプラズモン共鳴波長は異なるが,それぞれの共鳴波長において,生成する電流値,つまり外部量子効率(External quantum efficiency:EQE)が最大となった。
この光検出器の機構は,プラズモンが励起されると,銀ナノロッドは発熱することが知られているため,光照射時は,ナノサイズの熱源として機能する銀ナノロッドから,周囲の熱電材料に熱が伝わる。すると熱電材料中には温度勾配がうまれ,ゼーベック効果によって電流が生じ,光を検出する。
研究グループは,この成果は金属ナノ構造体の形とサイズだけで,応答波長を制御できる光検出器が実現できることを示し,今後ナノサイエンス分野へ貢献が期待でき,将来的にはナノピクセル光検出器の実現につながるとしている。