東北大学,旭川医科大学の研究グループは,ナノサイズの粒径を持ち,3つの異なる顔を持つ「アシュラ粒子」を含む多様なナノ構造を持つポリマー微粒子の作製法を発見し,さらに実験結果を再現・予測できる数理モデルの構築にも成功した(ニュースリリース)。
ポリマー微粒子は塗料などに混合して光の散乱を抑制したり,ディスプレーの厚みを規定するスペーサーや潤滑剤,免疫検査・診断用の担体など,多様な用途に用いられている。中でも,2つの異なる表面を持ち,ローマ神話において2つの顔を持つ神の名前に由来する「ヤヌス粒子」など異なる材料表面を持つポリマー微粒子は,異なる物性を一つの粒子で実現できることから,次世代のポリマー微粒子材料として期待されている。
従来ポリマー微粒子は乳化重合などにより,単一のポリマーから均一な粒径の微粒子を作製する手法が盛んに研究されてきたが,従来の手法では,その表面形状や内部構造を精密に制御することは困難だった。
研究グループは,表面張力の異なる8種類のポリマーを用意し,そのうち2種類組み合わせることにより,微粒子の内部構造を系統的に調査した。その結果,表面張力が近いポリマーの組み合わせでは,2種のポリマーの相分離によりヤヌス型の相分離構造が得られること,表面張力が大きく違うとコア−シェル型の相分離構造が形成されることが判明した。
この知見を基に,表面張力が同程度の3種のポリマーを組み合わせると,それぞれのポリマーが表面の1/3を占め,3つの異なる顔を持つ「アシュラ粒子」が形成されることを初めて発見した。また,3種のうち1種を表面張力の高いポリマーに変えた場合には,そのポリマーがシェルを形成し,内部にヤヌス型の相分離構造が形成された複合的な構造が形成されることも明らかとなった。
これらの微粒子の微細構造は,3次元電子顕微鏡トモグラフィー法による三次元観察でも証明され,さらに,CCH方程式系に基づく数理モデルのパラメータを最適化することにより,これらの実験結果を再現・予測できることを証明した。
研究グループが開発したアシュラ粒子およびその他のポリマー粒子群は,塗料やフィルムなどに混合することによりその光学特性を向上させたり,異なる生体分子を各表面に結合させることで,免疫検査や診断の高感度化や多様化に貢献する材料となることが期待されるという。