筑波大ら,光が引き起こす電子の局在化現象を観測

筑波大学,独マックス・プランク物質構造ダイナミクス研究所,スイスチューリッヒ工科大学の研究グループは,パルス光が遷移金属薄膜に引き起こすアト秒(10の18乗分の1秒)時間スケールの超高速な光吸収特性の変化を測定することに成功した(ニュースリリース)。

チタンやジルコニウムなどの遷移金属中では,一部の電子は原子核の束縛から完全には逃れられず,原子核の周りの空間的に狭い領域に局在している。この電子の空間的な局在性が電子同士の相互作用を強めることに起因して,高温超電導や金属-絶縁体転移などのさまざまな興味深い物質の性質が発現することが知られている。

研究では,2つの光パルスを,厚み50から100nmのチタン薄膜,及びジルコニウム薄膜に照射する実験を行なった。1つ目の光パルスは赤外光から成る数フェムト秒の時間幅を持ち,遷移金属試料を励起する役割を持っている。

また,2つ目の光パルスは極端紫外光から成る数百アト秒の時間幅を持ち,1つ目の光パルスで励起された試料の光吸収特性を,アト秒の時間分解能で測定するために用いられた。実験の結果,赤外光パルスを照射された遷移金属試料の光吸収特性がアト秒の時間スケールで変化していることを見出した。

さらに,遷移金属の超高速な光吸収特性変化の起源を明らかにするために,スーパーコンピューターを用いた第一原理シミュレーションにより,赤外光がチタン試料内部に引き起こす電子の運動を詳細に調べた結果,実験で観測された超高速な光吸収特性変化は,光によって電子が遷移金属原子の周りに局在化していること,および物質内部での微視的な遮蔽効果が変化することに起因していることが明らかになった。

今回の研究は,光パルスによって遷移金属内部での電子の局在性を増強することで,物質の光学的な性質を超高速に変化させることが可能であることを明らかにした。研究グループは,ここで得られた知見は,光によって物質中の電子の運動を超高速制御するための基盤となるものであり,さまざまな物質の性質を超高速に光制御するための重要な一歩となる成果だとしている。

その他関連ニュース

  • 島根大ら,結晶にあり得ない現象を金属ガラスに発見 2024年12月18日
  • 阪大,原子核の中で陽子と中性子が渦まく運動を発見 2024年12月16日
  • 千葉大ら,高次光子の量子情報を電子スピンへ転写 2024年10月24日
  • 東大ら,レーザー光による原子の急速な冷却を実現 2024年09月12日
  • 東北大ら,放射光で原子運動をナノ秒精度で測定 2024年06月18日
  • 理研ら,レーザーで電子回折をアト秒での制御に成功 2024年06月07日
  • 理科大,電子移動過程を可視化するナノチューブ作製 2024年06月06日
  • 筑波大ら,入れ子状物質の光照射で電子の抜け道発見 2024年06月04日