東京大学は,行きと帰りで非対称な光の屈折現象を実験的に観測することに成功し,この現象を定量的に説明した(ニュースリリース)。
通常,光はあらゆる経路のうち最も短い時間で通ることができる経路を進む。これはフェルマーの原理と呼ばれ,物理学の最も重要な原理の一つ。物質における光の速さは光の進行方向を反転しても変化しないため,行きも帰りも最短時間の経路は同一で,光が通る経路は変化しない。複屈折を示す物質においても,この原則は変わらない。
しかしマルチフェロイック物質と呼ばれる特殊な磁性体においては,光の速さ(屈折率)が行きと帰りで異なる場合があることがわかってきた。このような物質では,最短時間の経路も行きと帰りで異なるため,進行方向の反転によって光の通る経路にずれが生じる。
このような行きと帰りで非対称な光の伝播現象は理論的に提案されていたが,一般的に光の進行方向の反転による屈折率の変化が小さかったため,実験による報告例はなかった。
研究グループはこれまでに,メタホウ酸銅という物質の光応答が例外的に大きな非対称性を示すことを発見してきた。そこで,この物質を用いれば光路のずれも観測可能な大きさであると考えた。さらに,実験上の工夫として,光の進行方向を反転することと等価である磁場反転による光軸の変位を計測することで,光の経路の差の精密な測定を可能にした。
実験の結果,磁場反転によって0.50μmの光軸の変位を計測し,非対称な屈折現象を実験的に観測することに成功した。さらに観測された変位量がフェルマーの原理から予想される値と定量的に一致することを確認したという。
研究グループは,今回発見された非対称な屈折現象は光学の常識を覆す発見であり,今後の研究の進展によって光学素子などへの応用も期待できるとしている。