産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは,穴の開いたカプセル状の多孔性配位高分子(Metal-organic framework:MOF)と,安価な鉄とニッケルを固定しカーボンナノチューブで連結したカプセル状金属高分散炭素触媒を開発した(ニュースリリース)。
近年,持続可能な社会の実現へ向けて水素エネルギーや高性能バッテリーが重要なエネルギーシステムとして期待されている。これらを支える電極材料には,高価な白金に代表される資源的な制約のあるレアメタルが使用されている。そのため安価で資源的制約の少ないレアメタルフリーな材料の開発が求められている。
今回研究グループは,母体となるMOFを安価な鉄イオンとニッケルイオンを有機分子とともに溶媒中で加熱反応させて合成し,新たな有機分子とともに再加熱して,穴の開いたカプセル状のMOF(オープンカプセルMOF)を初めて合成した。このオープンカプセルMOFと新たな炭素源を特殊な条件下で焼成し,その過程で形成されるカーボンナノチューブ(CNT)によって連結されたカプセル状金属高分散炭素触媒を合成した。
今回開発したCNT連結カプセル金属高分散炭素触媒を酸素発生の電極として用いると過電圧は0.25Vとなり,これまで報告されている電極触媒の中で最も小さいものの1つとなる。実際に水電解を行なうと1.59Vの電圧で10mA/cm2の電流値と高い耐久性を示した。また,この金属高分散炭素触媒を亜鉛-空気電池の空気極として使用すると,市販の白金/炭素触媒をしのぐ活性と寿命を示したという。
さらに,空気極にCNT連結カプセル金属高分散炭素触媒を用いた亜鉛-空気電池を電源として,水素生成極と酸素生成極にCNT連結カプセル金属高分散炭素触媒を用いた水電解システムを駆動させると,水から水素(H2)と酸素(O2)が発生した。
このCNTで連結されたカプセル状金属高分散炭素触媒は電極触媒として貴金属触媒に匹敵する高性能を示すことがわかった。研究グループは,この触媒は水電解や亜鉛-空気電池の電極に利用でき,水素エネルギー社会や次世代電池に貢献できるとしている。