東京大学の研究グループは,エネルギー散逸の影響に長時間さらされた量子状態が到達する定常状態を,ニューラルネットワークによって表現する手法を提案した(ニュースリリース)。
量子物理学の支配するミクロな世界の性質は,エネルギーが保存するように「孤立」しているか,流入/散逸が起こりうるように「開放」されているかに呼応して,全く異なる様相を呈する。特定の物質や実験装置を完全に遮断することはできないため,現実的に存在しうるのは「開放」された量子状態となる。
その振る舞いの中でも,無限時間経過後に到達する定常的な量子状態は,安定性などの観点から非常に重要となる。一方で,こうした量子状態を理論的・数値計算的に取り扱うことは難しく,シミュレート可能な数理モデルが限られている。
今回研究グループは,ニューラルネットワークの一種として知られる,「制限ボルツマン機械」と呼ばれる関数の持つ高い表現能力に着目し,定常的な量子状態を効率的に表す手法を開発した。
情報科学の分野で従来用いられてきた制限ボルツマン機械の定義を拡張することで,複雑な量子相関を効率的に表現できることが知られていたが,「開放」された量子系への応用は世界で初めての試みになるという。
研究グループは,今回の成果は量子状態のシミュレーション効率を高めるだけでなく,量子物理の根本的な理解にも貢献するものと考えられるとし,今回の研究が進めば,ノイズ下の量子デバイスの性能評価や,単分子接合などミクロスケールにおける輸送デバイスの設計などに応用できるとしている。