群馬大学,量子科学技術研究開発機構(量研),東京大学,宇宙航空研究開発研究機構(JAXA)は,開発を進めてきた医療用コンプトンカメラで世界初の臨床試験を行ない,人体に投与した2種類の核医学診断薬剤が特定臓器に集積している様子を同時に可視化することに成功した(ニュースリリース)。
現在,がんの診断や臓器の機能検査を行なうためには,PET(陽電子放射断層撮影装置)や,SPECT(単一光子放射断層撮影装置)が必要不可欠となっている。しかしPETでは特定のエネルギー(511keV)のガンマ線を出す陽電子放出核種しか測定できないことや,SPECTでは金属製のコリメータの放射線遮蔽能力の制約から低いエネルギーのガンマ線しか利用できないなど,性能的に限界がある。
今回の研究で使用したコンプトンカメラは,宇宙観測用(遠距離,低イベント率)に開発した技術を転用し,近距離,高イベント率の環境に応用している。シリコン(Si)とテルル化カドミウム(CdTe)の半導体を放射線検出素子として用いることで,放射線識別用のコリメータを必要とせず,広いエネルギー範囲のガンマ線を精度よく識別しながら,効率よく検出することができるという。
医療での開発のポイントは,コンプトンカメラから30cm程度の近距離にある複雑な形状の測定対象(臓器や病変部)から放出される高強度のガンマ線をイメージングできることや,医療で汎用的に利用されている140keVから511keVまでのエネルギー範囲のガンマ線が計測でき,高いエネルギー分解能と空間分解能を併せ持つことが挙げられる。
これまでマウスなどの小動物を用いた測定については多数の報告があったが,臨床試験が実施された例はなかった。今回の臨床試験では,最も汎用的なPET薬剤と,腎機能検査で一般的に使用されるSPECT薬剤の2薬剤を被験者に同時投与した。被験者の臓器に集積した2種類のエネルギーを持つガンマ線を同時に測定した結果,肝臓と腎臓を二次元画像として,1台のカメラで同時に可視化することができたという。
研究グループは,コンプトンカメラが実用化されれば,個別の薬剤を個別の装置を用いて測定する必要がなく,検査期間の大幅な短縮ができ,さらにコンプトンカメラは1000keV以上のエネルギーを持つガンマ線も測定できることから,医療に利用できるエネルギー範囲の制限が大幅に拡大できるとしている。