名古屋大学の研究グループは,トポロジーの基本である炭素の絡み目「オールベンゼンカテナン」と,炭素の結び目「オールベンゼンノット」の世界初の合成に成功した(ニュースリリース)。
分子ナノカーボンにおけるノット(結び目)やカテナン(絡み目)と呼ばれる分子の合成は,近年では分子マシンへの応用が期待されいる。しかし,従来の一般的な合成法では炭素骨格のみで結び目や絡み目構造を作ることはできず,窒素原子や酸素原子などを導入し,それを足がかりとしてトポロジカルな構造へと誘導する必要があった。
研究グループは,複雑なトポロジーをもつ分子ナノカーボンである「トポロジカル分子ナノカーボン」を提唱した。実際の合成では,まずC字型の分子を用意し,2つのC字型分子の中央をケイ素原子でつなぐ。ニッケルを用いた反応によってそれぞれのC字の末端をつないで2つの輪を作り,フッ素(フッ化テトラブチルアンモニウム)によってケイ素原子を除去した後にナトリウムを用いた反応を行なうことで,2つのシクロパラフェニレンが幾何学的に連結した分子「オールベンゼンカテナン」に変換する。
この合成法によって,ベンゼン12個からなるリング同士のカテナンを9mg(収率16%)合成することに成功した。同様の方法を用いて,ベンゼン12個と9個の異なるサイズのリングが連結したカテナンを2mg合成した。
この合成法を応用し,トポロジカル分子ナノカーボン「オールベンゼンノット」を合成した。仮留め部位を適切な位置に2つ配置することで分子ノットのトポロジーを作れることが知られているため,仮留め部位としてケイ素原子を2つもつ前駆体を設計した。
U字型分子をケイ素でつないだ分子を合成し,このユニットに対してオールベンゼンカテナンと同様の反応(ホモカップリング反応,フッ素処理,ナトリウム還元反応)を行なうことで,0.3%という低収率(0.8g)ながら,目的とする「炭素の結び目」であるオールベンゼンノットの合成に世界で初めて成功した。
合成した「オールベンゼンカテナン」と「オールベンゼンノット」はX線結晶構造解析によって構造が確認され,それぞれの幾何学構造に由来する特異な光物性や動的挙動をもつことが明らかになった。研究グループは今回の研究により,結び目や絡み目といった複雑な幾何学構造を炭素骨格のみで作ることが可能になったことで,これまでにない複雑なナノカーボンの設計と合成につながるとしている。