東京大学の研究グループは,独自に開発した高精度な回転楕円ミラーを用いて,軟X線領域の高次高調波をナノメートル領域に集光することに成功した(ニュースリリース)。
軟X線光源(波長1~30nm)として,放射光軟X線,軟X線自由電子レーザー,レーザープラズマ軟X線,近赤外領域のフェムト秒レーザー光の高次高調波などが知られている。さまざまな軟X線光源の中で,近赤外領域のフェムト秒レーザーを希ガスに集光することによって発生させた軟X線領域の高次高調波は,そのパルス時間幅が極めて短い(1フェムト秒から100アト秒)という特徴を持る。
この光をナノメートルサイズ(20~500nm)に集光して試料に照射することができれば,極めて高い空間分解能と時間分解能を両立した計測が可能となるため,半導体中の電荷移動や磁性材料中のスピン波の伝搬など,ナノメートルスケールで起こる様々な超高速現象の研究が格段に発展するものと期待されている。
軟X線領域の高次高調波のように広い波長スペクトル幅(~10nm)を持つ光を集光するためには,表面をナノメートルレベル(~20nm)の形状精度で加工した非球面ミラーが必要となる。しかし,十分に高い精度で非球面ミラーを加工することは不可能であったため,これまでに達成された集光サイズは数マイクロメートルが限界だった。
研究では,高精度に加工された回転楕円ミラーを用いた,高次高調波集光システムを開発し,このシステムを用いることによって,波長10~20nmの高次高調波をナノメートル領域(350×380nm2)に集光することに成功した。
集光に用いた回転楕円ミラーは,東京大学のグループが高精度加工プロセス技術を用いて製作したもの。この研究において達成した集光サイズは,軟X線領域において従来達成されていた集光サイズ(1~10μm)と比較して1~2桁小さく,極めて高い時間分解能だけでなく極めて高い空間分解能を持つ計測が可能であることが示されたとする。
研究グループは,この軟X線領域の高次高調波をナノメートルサイズに集光する技術が,原子・分子の多光子イオン化過程の研究などの基礎研究をはじめとして,固体物質の超微細加工などの応用研究を格段に発展させることが期待できるとしている。