名古屋大学の研究グループは,GaNパワーデバイスの大電力化に際して障害となっていたキラー欠陥密度を従来の30分の1に低減し,大電力(100A)チップの歩留まりを大幅に向上した(ニュースリリース(4P目))。
GaNパワーデバイスを実現するには,大面積で高品質な結晶を実現する必要がある。研究グループでは,GaN高耐圧ダイオードの漏れ電流の起源を調査し,螺旋転位(転位線と原子位置のずれの量と方向を表しているバーガース・ベクトルが平行で転位線に対して平行に結晶面がずれているもの)によってできるナノパイプの一部で電流が漏れていることを突き止めた。
その結果を基に,有機金属気相成長(MOVPE)における結晶成長条件を改善し,昨年報告したpnダイオード動作での実証段階から,今年度は大電力用デバイスとして実用化レベルになり,100Aチップの歩留まりが,研究開始時はほぼ0%であった水準から30%へと大幅な向上を実現した。
また,MOVPEにおける原料ガスの反応過程を詳細に検討した結果,Ga原料であるトリメチルガリウムは,従来考えられていたアンモニアと気相で反応してアダクト(複数の段階からなる化学反応過程中に形成される中間体)を形成するのではなく,単独で分解する過程が支配的であることを明らかにした。
この結果を基に,金属GaのGaN表面での振る舞いをポスト「京」プロジェクトと共同でシミュレーションしたところ,二次元液体のように振る舞うことを初めて明らかにした。この結果,GaNの結晶成長プロセスにおけるインフォマティクスの技術の先駆けとなる手法を構築したことにより,第一原理計算による製造装置設計への道を拓いたものだとする。
研究グループは,今回の研究より大電力GaNパワーデバイスの実用化が大幅に加速され,また,プロセスインフォマティクスによる次世代製造装置設計用シミュレーター実現に向けた基盤を確立できたとしている。