九州大学の研究グループは,世界で初めて有機材料を用いた半導体レーザーダイオード(OSLD:Organic Semiconductor Laser Diode)の電流励起発振に成功した(ニュースリリース)。
これまでレーザー光源として用いられてきたのは無機材料で構成された半導体レーザーだが,無機材料の種類によって決まるレーザー発振波長は限定的で,任意の発振波長を得ることは困難だった。また,レーザー媒質として用いられる無機材料は結晶形態で,その作製プロセスの煩雑さや曲面や伸縮性基板への実装が難しいといった問題があった。
研究グループは,OSLDの実現を阻んでいた主要因は,高電流密度に耐えうる有機材料および素子構造の開発および高電流密度下で生じる三重項励起子やポーラロン吸収による損失だったと考えた。
今回開発したOSLDでは,有機レーザー材料として低閾値レーザー発振材料であるBSBCz,積層構造には逆積層型OLED構造を,また光共振器には1次2次の混合型DFB構造を利用した。
その結果,約650Acm–2以上の高電流密度下において480.3nmに発振ピークを有する強いスペクトルの狭帯化が生じることがわかった。また,発振特性が明確な閾値挙動を持つこと,発振スペクトルの半値幅が0.2nm以下と狭いこと,偏光特性やコヒーレンス特性を有することから,レーザー発振であることを確認した。
現時点では,青色OSLDによるレーザー発振が得られているが,研究グループは今後,分子設計およびデバイス設計を進めることで,可視域から近赤外域にわたるレーザー発振波長を有するデバイスへ展開し,デバイスの安定化技術の開発を進めていくとしている。
なお,今回の研究は2019年3月に設立した九大発ベンチャー「KOALA Tech」によって実用化を展開していく。