東北大学の研究グループは,科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業ERATOの一環として,高分子レーザー加工の様子を3次元的かつ動的に可視化する技術を開発した(ニュースリリース)。
物体内部の構造を立体的に可視化できるX線断層撮影(X線CT)は,医用画像診断機器や工業用の精密検査,あるいは,学術用途のイメージング機器として広く利用されている。目では見えない物質内部を立体的に可視化することができる。
その際に付くコントラストは,物質がX線を吸収する度合いの大小によって与えられる。ただし,X線吸収は重い元素が高密度に含まれているほど大きくなるため,軽元素からなる高分子材料や生体の軟部組織に対して十分なコントラストが得られない場合が多くある。この弱点を克服することを目的に,X線位相コントラスト技術をX線CTに導入したX線位相CTの開発が行なわれている。
今回,研究グループは,動的X線位相CTを高分子材料のレーザー加工モデルに適用し,動的変化(融解,発泡,亀裂生成,灰化など)を3次元的に可視化することに成功した。
具体的には,X線位相コントラストをX線透過格子を用いるTalbot(タルボ)干渉計と呼ばれる方式で生成した。X線は物質中を直線的に通り抜けると通常は考えられている。しかし,厳密にはプリズムで光が屈折するように1万分の1度程度角度が変わる。しかし,Talbot干渉計はこれを検出することができ,そこから位相コントラストが生成される。
Talbot干渉計は強力な白色シンクロトロン光に対しても機能するため,X線位相CTが1秒以下で撮影でき,これが白色シンクロトロン光を用いたX線位相CTである4D位相CTを可能とする。ただし,SPring-8の白色シンクロトロン光を照射すると,測定したい高分子材料にダメージを与えるという問題があった。
そこで,X線位相CTに適したスペクトルフィルターを白色シンクロトロン光に施し,この懸念を払拭した。スペクトルフィルターとは,専用に設計された多層膜X線ミラーを用いるもので,Talbot干渉計による位相コントラスト生成に寄与するスペクトル成分のみを取り出す。
ポリプロピレンの測定では試料は予め円盤状に成型し,その中心に赤外レーザー(波長1064nm,出力50W)を35μmに集光・照射した。その結果,細く絞ったレーザービームよりも広い範囲で高分子材料が変化を受ける様子が,4D位相CTによって初めて可視化できた。
研究グループは,今回の研究がレーザー加工に関するこれまでにない知見を獲得するツールとして大いに期待できるとしている。