国立天文台(NAOJ),中国国家天文台などの研究グループは,すばる望遠鏡の観測により,天の川銀河(銀河系)の誕生と成長の過程で合体してきた小さな銀河の痕跡といえる恒星の発見に成功した(ニュースリリース)。
銀河系には渦巻状の円盤構造を大きく取り囲んで恒星がまばらに存在している「ハロー構造」があることが知られ,その恒星の多くが銀河形成の過程で比較的初期に生まれたものであることがわかっている。
これらの恒星には,ガスが天の川銀河に集まる過程で誕生してきたものと,恒星の小さな集団(矮小銀河)で生まれたものが後に天の川銀河に取り込まれてきたものがあると考えられている。このプロセスは,暗黒物資の存在を仮定した銀河形成の計算機シミュレーションで予測されている。
天の川銀河に取り込まれた矮小銀河は,すでにその形を崩してしまい,恒星はばらばらに存在している。しかし,恒星の軌道運動や化学組成(元素組成)は取り込まれる前の状態をとどめていると考えられる。
矮小銀河では,恒星の誕生が比較的ゆっくり進むと考えられ,それは恒星の元素組成に影響する。実際,天の川銀河の周囲には現在でも矮小銀河がみられ,そこではマグネシウムと鉄の組成比に天の川銀河の多くの恒星とは異なる特徴があることが知られている。
研究グループは,中国の分光探査望遠鏡「LAMOST」による探査で観測された恒星から金属元素量の比較的少ない恒星を選び出し,すばる望遠鏡に搭載された高分散分光器(HDS)を用いて詳しく観測する日中共同研究を2014年から実施してきた。これまでに400天体以上について詳しい元素組成を測定し,そのなかの一天体(J1124+4535)が際立った特徴を持つことを突き止めた。
今回,すばる望遠鏡を用いた観測により,この恒星のマグネシウム/鉄比が低いことに加え,鉄より重い元素が相対的に多いことがわかった。これらの重い元素は,その組成パターンから,爆発的な元素合成でできることもわかった。この恒星の鉄組成は太陽の約20分の1,マグネシウム組成は約40分の1であるのに対し,重い元素を代表する元素(ユーロピウム)は太陽組成に匹敵する。
これは,この恒星がかつて矮小銀河のなかで生まれ,それが銀河形成の過程で天の川銀河に取り込まれてきたことを明瞭に示すもの。これほどはっきりした元素組成による証拠が個別の恒星に対して得られたのは今回が初めてとなる。研究グループは,今回の観測結果は,天の川銀河のような大きな銀河が,小さな銀河との衝突・合体を何度も繰り返して成長してきたという銀河形成シナリオを裏付けるものとしている。