日本電信電話(NTT)は,世界最小の消費エネルギーで動作する光変調器と光トランジスタを実現した(ニュースリリース)。
CMOSによるコンピューティング基盤は,処理速度と消費エネルギーの面で限界が近づいている。そのため,E-O変換とO-E変換を組み合わせたO-E-O変換のような光非線形素子がこれまで研究されてきた。しかし,通常は非線形効果を起こすために強い光入力が必要なため,小型化・省エネ化が困難だった。また,研究されてきた技術は素子サイズや消費エネルギーが大きく,動作速度も1GHzに満たなかった。
原因として,E-O/O-E変換素子の電気容量が100fF以上と大きいため,電気容量に比例する高い消費エネルギーが必要であり,またRC時定数によって電気容量に反比例して動作速度が遅くなっていたことがある。これに対し,研究グループはフォトニック結晶を用いて,電気容量が極めて小さく消費エネルギーが極めて低いナノ光変調器(E-O変換)と,これをナノ受光器(O-E変換)と集積させたO-E-O変換型の光トランジスタを実現した。
開発した超小型のナノ光変調器は,40Gb/sの高速な電圧信号入力に追従する明確な光変調出力が観測され,このときの消費エネルギーは世界最小(1ビットあたり42アトジュール)であることを確認した。
また,同一のフォトニック結晶上にナノ光変調器とナノ受光器を形成し,近接集積することで,超小型のO-E-O変換素子を作製した。動作実験では,ナノ受光器に入力された10Gb/sの高速な光信号が電流となり,さらに負荷抵抗を介して電圧信号へと変換される。この電圧信号をナノ光変調器に与えることで,別波長の光に信号波形を転写した。
これにより,光非線形動作の1つである光信号の波長変換動作を実現した。このとき必要な光制御エネルギーは1ビットあたり1.6フェムトジュールであり,従来のO-E-O変換素子に比べて2桁以上の低減した。また,動作速度とRC時定数の対応から,この集積による電気容量は世界初となるレベルである2fFであることを確認した。
この光波長変換動作では,制御光の入力強度よりも被制御光の出力強度を2倍以上高めることができた。これは光信号の入出力において「光トランジスタ」に相当する動作を実現したことになる。利得があることで,この光トランジスタを多段に接続することも可能となり,将来的に高密度な集積による光信号処理が期待される。
研究グループは今回の実証により,多数のCMOSチップ内でコア間を光で接続するネットワーク処理を劇的に省エネ化することが可能となるだけでなく,小型で信号利得をもつ光トランジスタが実現されたことで高速な光信号処理が可能となり,新しい光電融合型のプロセッサチップの実現が期待できるとしている。