矢野経済研究所は,2019年のマイクロLEDディスプレー及びミニLEDディスプレーの世界市場を調査し,アプリケーション別の採用動向,参入企業動向,将来展望を明らかにするとともに,2027年のマイクロLEDディスプレー世界搭載台数を1,083万台,ミニLEDディスプレー世界搭載台数を2,145万台と予測した(ニュースリリース)。
これによると,現在,各種ディスプレーの市場ではLCD(Liquid Crystal Display)が依然として9割のシェアを占めている中で,OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレーがLCDより低い消費電力,単純な構造,鮮やかな色再現,広い視野角などの特長に加え,フレキシブルディスプレーといった次世代ディスプレーの機能を持つことで,スマートフォンやTV等のアプリケーションを中心に採用数を増やしている。
一方,LED(Light Emitting Diode)は別途の光源が必要なLCDのバックライトユニットとして使用されており,大型サイネージなどのディスプレーにおいては個別LEDをパッケージングし,ピクセル(画素)として搭載されている。LEDディスプレーは高輝度,高視認性,高効率,低電力消費,長寿命などの特長を持っているものの,従来のLEDではチップのサイズが大きいため,高解像度が求められる中小型ディスプレーへの搭載を実現するのは難しい。
そこでマイクロLED(サイズが100μm以下の超小型LED)を用いたディスプレー技術が注目されている。LEDの特長を維持しながらもLEDのサイズを超小型化し,ディスプレーのサイズを問わず採用が可能なことに加え,フレキシブルな表示も可能なため,近年マイクロLEDディスプレーの研究開発が活発に行なわれており,商用化の動きも見え始めているとする。
但し,マイクロLEDディスプレー技術は従来技術の延長線上での開発が難しく,商用化及び普及は長期戦になると見込む。製造技術などの面において容易とされるミニLED(サイズが100μm~200μmの小型LED)をファインピッチディスプレーのピクセル,またはLCDパネルのバックライトとして採用を検討する動きも,中国や台湾メーカーを中心に本格化しているという。
同社が注目トピックとするミニLEDの場合,マイクロLEDに比べるとチップサイズが100~200μm程度と大きく,光源の製造やトランスファー,不良検査,LEDチップの振り分け,修理工程などにおいて従来LEDの製造工程と装備を活用可能なことから,マイクロLEDに比べて製造技術の難度が低く,商用化が容易であるとする。
一方で,マイクロLEDはチップのサイズが極めて小さいため,現行の製造工程では対応できないところが多く,新しい製造技術が必要となる。現状,多数のメーカーや研究機関,大学において研究開発が活発に行なわれているものの,歩留まりの向上や生産コストの削減など,解決すべき課題は依然として山積みされている。
これら課題が解決されない限り,マイクロLEDの各種ディスプレーへの採用拡大は図り難く,製造技術を確立するとともにサプライチェーンを確保し,生産性の向上と歩留まりの改善,コストダウンを実現することが今後の市場拡大のカギを握るとしている。
2017年にソニーが「CLEDIS(クレディス)」を採用したディスプレーの販売を開始したことで,マイクロLEDディスプレーは一部ではあるものの市場が形成された。2021年頃からは一部のスマートウォッチとAR(Augumented Reality:拡張現実)・VR(Virtual Reality:仮想現実)機器向けにマイクロLEDディスプレーの採用が始まり,搭載台数が徐々に増加する見通しで,2027年のマイクロLEDディスプレー世界搭載台数を1083万台と予測する。
一方,マイクロLEDに比べて製造が容易なミニLEDディスプレーは,2022年頃からTVやモニター,ノートPCを中心に本格的な搭載が進み,2027年のミニLEDディスプレー世界搭載台数は2145万4000台まで成長すると予測する。
競合相手のOLEDに比べて,マイクロLEDディスプレーとミニLEDディスプレーは高輝度,低消費電力,長寿命などの面において競争力を持つものの,既に10年以上も前から量産が始まっており,大規模の投資が行なわれているOLED業界と違い,製造工程の最適化とサプライチェーンの確保が足かせとなっているという。
参入メーカーは,当面,超小型LEDならではの特長を十分に生かせ,OLEDに対して差別化が図れるアプリケーションのうち,ある程度のコストアップが受け入れられるニッチ市場から攻略し,「ニッチ商品への採用→量産化→コストダウン→採用アプリケーション数の拡大」を狙っていくべきだとしている。