東京大学と高輝度光科学研究センター(JASRI)は,複雑な形状を持つ高精度ミラーを用いて,リング状に集光されたX線ビームの形成に成功した(ニュースリリース)。
小型のX線光源から大規模な放射光光源まで,X線を発生させるための光源技術が著しく進歩している。X線分野は,X線の光源が飛躍的に発展しているにも関わらず,可視領域に比べると,いまだに自由自在に分析装置や加工装置を作ることができない。
この理由の1つに,X線をハンドリングするために不可欠なX線ミラーの自由度が低いことがある。波長が極端に短いX線用のミラーには極めて高い精度が必要になり,平面などの単純な形状は作ることができても,複雑な形状を作ることは困難だった。
今回,研究グループは,X線ミラーの自由度の拡大を目指した初めての試みとして,X線をリング状に集光可能な「X線リング集光ミラー」の開発に取り組んだ。
可視領域の光をリング形状にするためにはアキシコレンズが用いられている。このレンズは高分解能顕微鏡やレーザー加工装置など,光を使う最先端の機器に多く使われている。一方で,X線をリング形状にするための素子は世の中に存在していなかった。
研究グループは,光学理論に基づく計算を駆使し,X線がミラー表面を反射すると反射したX線ビームがリング状となるミラー形状の算出方法を確立した。ミラーの形状は,回転楕円形状と円錐形状を組み合わせた複雑な形状をしている。このユニークな形状を持つミラーを「X線リング集光ミラー」と名付けた。X線リング集光ミラーを反射したX線はリング状のX線ビームになる。
今回の研究では,実際に,超精密加工技術を用いてX線リング集光ミラーを作製した。そして大型放射光施設SPring-8の軟X線固体分光ビームライン「BL25SU」において作製したミラーの評価を行なった。波長4nmの軟X線を反射させ,X線CCDカメラによりX線ビームの観察を行なった。
この結果,リング状に集光されたX線ビームの観察に成功した。断面形状から中心点に特異点がある楕円と円錐が合体した形状であることがわかった。さらに,X線ミラーの姿勢を変化させると円の形をしたX線ビームが楕円形状となり,この楕円の長軸と短軸の長さを自由自在に制御できることを明らかにした。
研究グループは,今回の研究により,最先端の超精密加工技術を用いれば,自由な形状を持つX線ミラーの作製が可能であることが示された。これまでこうした複雑な形状を持つX線ミラーは存在していなかったため,ものづくり分野とX線光学分野の両方の面で大きな成果になるとしている。