東北大学の研究グループは光遺伝学により,ラットがヒゲで触ったものの形や大きさを瞬時かつ鋭敏に捉える脳のメカニズムを解明した(ニュースリリース)。
ヒトなどの高等動物は触覚を介して,ものの形,大きさ,運動,手触りなどの複合的な知覚を得ている。これまでこれらの複合的な知覚が脳の中でどのように処理されているかに関する神経生理学的な研究はわずかしかなかった。
そのため,任意の触覚パターンの入力を与えられるとともに,それに対する脳の神経細胞応答を同時計測できる動物モデルの開発が,脳における感覚情報の処理論理の理解への喫緊の課題となっていた。
研究グループは,青色光に応答する特殊なタンパク質の分子(チャネルロドプシン2)を,ヒゲの根元にある感覚神経で自然発現するように遺伝子を改変したトランスジェニックラットに導入した。
ラットのヒゲは,左右それぞれ規則正しい2次元配列になっている。今回の研究では,右側のヒゲをすべて剃り,16本のヒゲの根元に光ファイバーを接続した。各々の光ファイバーの反対側には,青色LEDが接続されており,コンピュータソフトウェアにより,個々のLEDの点滅が制御される仕組みになっている。
こうして,研究グループは,コンピュータ制御下で青色光照射によって,複数のヒゲ触覚を任意の時空間パターンで作り出す光遺伝学(オプトジェネティクス)システムを世界に先駆けて開発した。
このシステムを用いて,複数のヒゲ触覚刺激に対する大脳皮質浅層の神経細胞の入力応答特性を統計解析した結果,大脳皮質神経細胞はラットから見て水平方向のゾーン選択的なパターンに瞬時に反応するとともに,ゾーン周囲への同時刺激によって反応が抑制されることが明らかになった。
つまり刺激入力に対する空間的コントラストを脳が積極的に強調しているという計算論理を解明した。これにより,ラットは,対象物の大きさやトンネルの広さをおおまかに把握すると考えられるという。
研究グループは,今回の研究は,世界に先駆けて,脳への触覚入力の時空間パターンを光の点滅で作り出したもので,脳の多変量計算論理(脳において複数の入力情報が統合され,ある意味情報が作られる際に用いられるルール)の解明に貢献することが期待できるとしている。