古河電工は,インコヒーレント光を用いたラマン増幅用の新しい励起光源技術を開発した(ニュースリリース)。
光ファイバーを用いたラマン増幅はErドープ光ファイバー増幅(EDFA)と並び現在の光ファイバー通信を支えるコア技術。EDFAは1990年代前半に実用化され,1.48μmと0.98μmの励起レーザーが使用されている。
ラマン増幅では,励起レーザーが有する揺らぎが光信号に影響を与えるため,受信側から励起する後方励起ラマン増幅が標準的に用いられている。後方励起ラマン増幅では,信号光と励起光が反対方向に進むため励起光が信号光に及ぼす揺らぎは平均化されその影響は軽減されるが,光ファイバーを伝搬する信号の伝送特性に改善の余地があった。
前方励起ラマン増幅では,伝送特性改善に優れラマン増幅の効果を最大限に生かすことができるが,信号光と励起光が同じ方向に伝搬するため励起レーザーの揺らぎが信号に影響を及ぼし伝送特性を劣化させてしまう。
今回,同社が開発した新しい励起光源技術は,インコヒーレント光源に半導体増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)の発する自然放出光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を利用している。ASEはランダムな光であり,ファブリ・ペロー共振器構造のレーザーにみられる発振モード間の揺らぎがなく,前方励起ラマン増幅でも信号光に影響を与えない。
一方,光ファイバー通信システムに適用するには小型,高信頼な光モジュールが必要となるが,同社は,デジタルコヒーレント光伝送用信号光源で培ってきたSOAおよび高度なパッケージ技術を有しており,これらを最大限に活用し小型で高出力なインコヒーレント光源技術の開発に成功した。
また,インコヒーレント光を励起レーザーでラマン増幅する技術開発も合わせて進め,光ファイバー通信システムへの適用領域拡大もはかった。例えば,新しい励起光源を1次励起,励起レーザーを2次励起とすれば長距離伝送システムの特性向上が容易になるという。
インコヒーレント光を用いた新しい励起光源技術は,励起光の揺らぎによる信号光への影響を抑えるため,従来は実用化が困難であった前方励起ラマン増幅が実現できる。
同社は,前方励起ラマン増幅は光ファイバー通信の伝送特性向上,伝送距離拡大に有効な技術であり,今回の開発は,5G時代の急激なトラフィック増大の予想に対応して世界的に開発が進む600Gb/sや1Tb/s超のデジタルコヒーレント光伝送など,光ファイバー通信システムの高速・大容量化に大きく貢献するものとしている。