新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA),沖電気工業(OKI)は,光信号を電気信号に変換する素子であるフォトダイオードの小型化と高感度化を両立させる技術の開発に成功し,シリコンフォトニクス技術により他の光素子と集積可能なフォトダイオードとして,1600nm波長帯の光に対して世界最高となる21.8A/Wの受光感度を達成した(ニュースリリース)。
超高速,同時多数接続,低遅延の通信サービスを提供する第5世代移動通信(5G)ネットワークを世の中の隅々まで普及させるためには,設置場所を選ばない手のひらサイズの小型のスモールセル基地局装置が必要で,それに内蔵できる超小型の光トランシーバーの実現が待望されている。
研究グループは今回,アバランシェフォトダイオード(APD)の原理を利用してフォトダイオードを開発した。一般に,APDでは,受光に伴って発生する電子の流れを,電界をかけた増倍領域において増幅することにより高い受光感度が得られる。これまで化合物半導体を用いたAPDでは,非常に高い受光感度が達成されていたが,他の光素子との集積化は難しく,製造コストも高くなる課題があった。
一方,他の光素子との集積化が容易で,製造コストを安価にできるシリコンフォトニクス技術を用いたAPDでは,シリコン光導波路の上に増倍領域とゲルマニウムからなる光吸収領域を順次積み重ね,さらに光吸収領域の上に電極を設ける構造が報告されていたが,十分な受光感度を得ることができなかった。
今回開発したフォトダイオードでは,光アクセスネットワークで近年利用が始まった1600nm波長帯の光に対して高い受光感度を得るために,ゲルマニウム光吸収領域上に電極を持たない構造をとることにより,光吸収領域における光損失の低減を図った。
その結果,シリコンフォトニクスにより他の光素子と集積可能な構造のフォトダイオードとして,1600nm波長帯の光に対して世界最高となる受光感度21.8A/Wを実現して,5Gネットワークに十分適用可能な性能を達成した。また,増倍領域をシリコン光導波路の中に設ける独自のシンプルな構造を採用したことにより,大量生産技術が確立している安価なCMOSプロセスでの製造が可能となったという。
研究グループは,今後,今回の開発素子を含め,光源や光変調器などの全ての光素子をシリコンチップ上に集積化することにより,超小型光トランシーバーを実現し,5Gネットワークのスモールセル基地局装置に搭載される光通信ユニットの超小型化・低消費電力化に貢献するとしている。